今後、原油価格が急落すれば再び減産しかねない
サウジアラビアとイランは3月、中国の仲介によって、電撃的に外交関係を正常化させている。また、ロシアはシリア、イランなどと友好関係にあるほか、同じ産油国としてOPEC+という枠組みで協調して原油の需給調整を行うなど、中東国との関係は良好だ。一方で米国は、大規模なオイルシェール開発に成功したことで中東産油国にとって重要顧客ではなく、警戒すべき競争相手となっている。
9.11事件以降の米国による中東政策は失敗続きであり、米国による中東での覇権は大きく弱まっている。中東の親中露化、反米化が進む中で、中東産油諸国が「なぜ欧米のインフレ抑制のための犠牲にならなければならないのか」といった思いを強めたことが、今回の電撃的な協調減産につながっているのではないか。
そうであれば、今後、原油価格が急落すれば、再び彼らは減産しかねない。原油価格の急落の要因が金融危機の再発懸念、国際的な景気見通しの悪化であれば、減産により原油価格が再び元に戻れば、国際情勢はさらに悪化しよう。米国も厳しいがそれ以上に欧州が厳しい。新たな金融危機の火種となる。
今回のグローバルなインフレの発生は、ロシアによるウクライナ侵攻に対する制裁として、ロシアからのエネルギー資源の購入を制限したことに端を発している。経済活動には必要不可欠で、経済活動の基礎となる原油の需給を安定させない限り、根本的なインフレの解消は難しいだろう。
米国がもはや中東への影響力を行使できない以上、ウクライナへの国際支援を強化し、ウクライナが今すぐロシアを打ち負かすか、それができないのなら、できるだけ早く和平を実現することが望まれる。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。楽天証券で「招財進宝!巨大市場をつかめ!今月の中国株5選」を連載するほか、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。