タクシー運転手にとって、乗客とのトラブルは簡単には避けられないもの。酔った乗客が運転手に暴力をふるうケースもあるが、そうした際、運転手の正当防衛はどこまで許されるのか。空手有段者のタクシー運転手から寄せられた相談を弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
タクシーの運転手です。酔っぱらった乗客とのトラブルが絶えません。私は空手の有段者で、酔った相手を制御するのは簡単ですが、問題はやりすぎて乗客にケガをさせてしまった場合です。運転手が遭遇する、このような状況のときの正当防衛と過剰防衛の線引きは、どこになるのか教えてください。
【回答】
急迫で違法な侵害をする者に対し、自己、又は他人の権利を防衛する意思で、やむを得ずにした行為は正当防衛として処罰されません。
これは違法な攻撃が間近に迫ったり、継続している緊急状況のもと、警察の保護が期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものです。
車内で、いきなり乗客から殴られたら、警察の助けを呼ぶ暇はありません。身を護るための反撃は正当防衛です。仮に憤激し、逆上して反撃しても身を護る意思があれば、防衛意思は否定されず、正当防衛になります。しかし、防衛の程度を超えた行為は原則処罰され、情状により、刑が減軽されたり、免除されることがあるだけ。
この防衛の程度を超えた行為を過剰防衛といい、過剰防衛には、量的過剰と質的過剰があります。
量的過剰とは、相手の攻撃が終わったのに反撃する場合です。反撃したら大人しくなって、もはや攻撃される恐れがなくなったのに、反撃を続けると過剰防衛になります。ここでは相手の攻撃が終わったといえるかが問題となり、反撃する前に、謝ってきたのに攻撃すると防衛行為とはいえず、過剰防衛にもなりません。そして、質的過剰とは、素手で殴られたのに刃物で反撃したり、反撃者が格闘技の有段者だったりした場合で、防衛の程度を超えた行為となります。