老後のお金は、本当に足りなくなるのだろうか──。令和3年「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、世帯主が60代の二人以上世帯(金融資産を保有していない世帯を含む)の貯蓄額の平均は2427万円で、これは全世代の中でもっとも多い。
中央値は810万円と、確かに「老後資金2000万円」には足りないが、ここに年金や退職金が加わると考えれば、一概に少なすぎるとは言い難いのではないだろうか。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが言う。
「老後資金2000万円問題は“夫65才、妻60才以上の高齢夫婦無職世帯の家計”で、主な収入は公的年金のみ、今後30年同じ金額の支出が続くことを前提とした試算です。実際には、年齢が上がるほど出ていくお金は減っていき、赤字は縮小される。
そのため、老後資金には、必ずしも2000万円が必要とは限らないのです。60才の時点で中央値の810万円に近い貯蓄ができていれば、やりくり次第では充分に“なんとかなる”と言えるでしょう」
生きているうちにお金を使い切る
むしろ、中途半端にお金を残しておけば、相続する子供や孫を困らせてしまう場合も少なくない。
実は相続争いは、ごく一般的な資産額の家庭の方が起きやすい。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。
「2021年の裁判の統計によると、遺産分割をめぐる裁判のうち、遺産総額1000万円以下が33%、遺産総額1000万~5000万円が44%と、全体の8割近くが“遺産総額5000万円以下”の家庭で起きているのです」