老後の生活のためにと、退職金を貯蓄に回す人も多いかもしれない。しかし、そのお金がいずれ残された親族が争う「争族」の火種になる可能性もある。家族のことも考えた場合、老後のお金とどう向き合えばよいのだろうか。
もし、住宅ローンなどの負債があるなら、老後の生活費の足しにするより先に、退職金を使って完済するという選択肢もあるだろう。そうした「負の財産」があった場合に相続を放棄すると、それ以外の財産もすべて、受け取れなくなってしまうのだ。
負債がなく、800万円程度の貯蓄があるなら、退職金は自分のために使ってほしい。まずは、安心して快適に老後を過ごせる環境づくりから。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。
「高齢者施設に入るつもりならその入居費用に、最後まで自宅に住み続けるつもりなら、屋根や水回り、足腰が不自由になったときに備えたバリアフリー化など、家のリフォーム費用に充てるといいでしょう」
将来的に施設に入居するつもりなのにリフォームにお金をかけすぎたりしないよう、このタイミングで“終の棲家”について、しっかりと検討しよう。一方、退職金でお墓を買うのはあまりすすめない。相続・終活コンサルタントの明石久美さんが言う。
「お墓は早くに買いすぎても、いいことはありません。経年劣化するうえ、何年後に使うかもわからないのに、年間管理料を納め続けなければならなくなることもあるのです」
老後をおだやかに過ごせる環境が整ったら、趣味や旅行など、生きがいや思い出になることにお金を使うべきだ。
幸福度を上げるのは、品物を買う“モノ消費”よりも、体験にお金を使う“コト消費”だといわれている。
スポーツクラブやセミナー、カルチャーセンターなどに通ったり、友人とハイキングに行くなど、自分のコミュニティーを広げて生きがいになることにお金を使う方が満たされる。それは、贈与する場合も同様だ。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが言う。
「お金をそのまま生前贈与するのもいいですが、そのお金で子供と一緒に旅行に行くのもいい。“孫の留学費用を出す”“子供が興した事業に出資する”なども、生きたお金の使い方になるはずです。自分の子供や孫でなくても、どこかに寄付することも、幸福度が高まるお金の使い方です」