【3】はキャンセル料などが発生すれば損害ですが、渋滞でイライラすることは日常起きることで損害とまではいえないでしょう。
【4】の因果関係とは、「あれなければ、これなし」の関係ですが、法が責任を認めるのは、「通常生ずべき損害」が原則で、特別の事情によって生じた損害は、その事情を予見できたときに限って賠償の対象にします。風が吹けば桶屋が儲かる式の条件関係だけで因果関係を認めると、無限の責任追及の連鎖が起きかねません。そこで被害者として保護すべき範囲(相当因果関係がある範囲)に賠償責任が限定されるのです。
事故で渋滞が起きるとは決まっておらず、事故当事者以外の見物渋滞が原因で起きることもあります。また、渋滞は道路事情によっても発生します。道路走行は渋滞が起き得ることをある程度覚悟しています。渋滞リスクを承知で走行しているのですから、事故渋滞による一時的な通行障害に遭うことは受忍義務の範囲内といえます。したがって、事故渋滞で損害があっても事故と相当因果関係はないと判断されるでしょうし、受忍義務の範囲内では【2】の権利侵害の違法性も否定されます。
結局、渋滞で人を困らせることを目的で交通事故を起こしたような場合以外、渋滞による損害賠償請求は難しいでしょう。
※女性セブン2023年5月4日号