「失業給付」を巡る制度改正の議論が注目を集めている。4月12日、岸田文雄・首相が議長を務める「新しい資本主義実現会議」では、自己都合で会社を辞めた人への雇用保険の基本手当(失業給付)の支払いについて、現行制度よりも迅速化する案が示された。退職した後の生活に安心が得られ、転職のハードルが下がることなどを歓迎する声は多いが、その一方で専門家からは制度改正が実現したとしても課題が残るとの指摘もある。
雇用保険は会社勤めの人のうち「31日以上雇用される見込みがあり、所定労働時間が週20時間以上で、学生ではないこと(例外あり)」という条件を満たした人が加入する。雇用保険に一定期間加入して働いた人が失業した際、ハローワークなどで求職活動にあたることなどを条件に受け取れるのが「失業給付」だ。
原則として離職前6か月の賃金の50~80%が支給額となり、年齢によって上限額などが設定されている。被保険者であった期間や年齢、離職の理由が「会社都合」か「自己都合」かなどによって支給される日数が決まる仕組みだ。今回の検討されている制度改正はどのようなものなのか。LMC社労士事務所代表で、社会保険労務士の蒲島竜也氏が解説する。
「現行制度では、離職した理由が倒産や解雇といった『会社都合』なのか、家庭の事情などによる『自己都合』なのかで、手続きをしてから失業給付を受け取れるまでの期間が異なります。会社都合であれば7日間の待期期間後には受け取れますが、自己都合の場合は7日間の待期期間に加えて2~3か月間の『給付制限期間』が設けられています。
現在、検討されている案は、自己都合退職の場合の2か月間の給付制限期間をなくし、会社都合の場合と同じく7日の待期期間のみで失業給付を受け取れる制度に変えるというものです」
政府が「すぐに失業給付が受け取れる」かたちへの制度変更を検討しているのは、転職のハードルを下げて成長産業に労働力が移動しやすくすることが狙いだとされている。蒲島氏が続ける。
「検討案が実現すれば、いまの会社を辞めようか考えている人への影響は大きいと思います。現実問題として、『いま仕事を辞めると一定期間収入がなくなってしまうのでどうしよう……』と悩んでいる人は非常に多い。私もそういった相談をよく受けます。そうして悩んでいる人たちにとって、転職のハードルはかなり下がると思います。何か月も収入がないというのは、本人だけでなく家族にとっても大問題ですが、給付制限期間がなくなれば、離職に際して家族の理解も得られやすくなるでしょう」