5年に一度となる公的年金の「財政検証」の発表を来年に控え、厚生労働省社会保障審議会の年金部会では、公的年金制度の将来像を巡る議論が重ねられている。3月28日に行なわれた年金部会の議事録がこのほど公開されたが、そこで俎上に載せられていたのが、パート労働者の「年収の壁」問題だ。年収が増えて厚生年金など社会保険に加入することになると、保険料が天引きされて手取りが減るため、それを避けて労働時間を調整する人が少なからずいるという問題だが、解消のための施策によって不公平感が増しかねないという難しい問題が浮き彫りとなっている。
いわゆる「年収の壁」問題とは、世帯主の扶養に入っている配偶者が、年収など一定の条件を満たすと、新たに税金や社会保険料の負担が発生することによって生じる問題を指す。とりわけ影響が大きいとされるのが、パート労働者の年収が130万円(被保険者数101人以上の事業所では年収106万円)を超えると厚生年金や健康保険に加入するための保険料が発生する「130万円の壁(同106万円の壁)」だ。
日本の年金制度では、主に会社員の妻が専業主婦である場合を想定して創設された「第3号被保険者」という制度がある。会社員の夫の扶養に入る妻は、保険料を払わなくても国民年金の加入期間にカウントされるという仕組みだ。専業主婦がパートに出て働く場合も、この第3号被保険者であり続けるために、年収を130万円ないし106万円を超えない範囲に調整するというケースが少なくなかった。岸田政権では、この「年収の壁」問題の解消に取り組もうとする動きがある。自民党関係者が言う。
「政府内では、パート労働者が年収130万円(ないし106万円)を超える働き方になった場合に、社会保険料負担の一部を企業に助成金として拠出する時限的な措置を行なうことが検討されている。人手不足の解消や、女性の社会進出を阻害しないために、『年収の壁』があることによる就労調整をなくしていく狙いがあります」
そうした「年収の壁」問題への対応は議論の途上にあるわけだが、3月28日の年金部会では、本人の保険料負担を企業への助成金というかたちで政府が補填する案について、有識者から批判的な見解が寄せられていた。