いきなり第3号を廃止するのも難しい
年金部会の議事録を見ると、委員を務める慶應大学商学部の権丈善一教授は、企業への助成という案について、「厚生年金保険料の本人負担分を補助金という他の人のお金で埋めてもらって、厚生年金をフルで受け取ることができるようにするという3号への特別な優遇措置」だとして、「この国では、3号を優遇すると、大炎上します」という懸念を表明している。
同じく委員を務める連合の佐保昌一・総合政策推進局長も「いわゆる収入の壁ですが、岸田首相の会見後の様々な報道によれば、時限措置として、パート労働者等の保険料負担を実質的に国が一部肩代わりする具体策が報じられております。これは、制度を複雑化させるとともに、いわゆる収入の壁の根本的な解決につながるとは言い難いものであります」と述べている。佐保氏は「連合としては、将来的に目指すべき公的年金制度として、現行の1号、2号、3号の区分をなくし、全ての者が加入する所得比例年金制度の創設を掲げております」とも述べ、年金制度の抜本的な改革の必要性にも言及した。
ベテラン社会保険労務士は「年収の壁」を巡る議論についてこんな見方をする。
「国は厚生年金の適用拡大を進めて、第3号被保険者の縮小に舵を切ってきました。たしかに、『会社員+専業主婦』を基本単位と考えた第3号被保険者の仕組みが時代にマッチしなくなってきているのは事実。若い世代ほど共働きの夫婦が多くなっている。年金部会の資料を見ても、『第3号被保険者の5割以上が就業している』というデータが示されており、“純粋に無就業の専業主婦”というのが年々少なくなってきているのは明らかです。
制度自体が時代遅れになり恩恵を受けられる人がごく一部になっているなかで、政府が企業への助成によって“少しだけ働いている第3号被保険者”を優遇するようなかたちになれば、年金部会で懸念された通り、大きな反発が予想されます。かといって、いきなり第3号被保険者を廃止するような急進的な制度変更も難しいので、どうやって改革を進めていくか、政府は難しい舵取りを迫られるでしょう」
一方で、第3号被保険者は年金制度に“ただ乗り”しているような存在として扱われがちだが、そもそもの制度導入の際に会社員の厚生年金保険料は引き上げられているという事実も見逃せない。「その意味では、独身者も含めた会社員全体が専業主婦の年金を支えるという仕組みになっている。導入時に負担増があったうえに、さらなる保険料負担を求めることを理解してもらえるように、政府は説明責任を果たしていく必要がある」(前出・ベテラン社会保険労務士)という指摘もあり、改革は一筋縄ではいかなそうだ。(了)