社会問題として取り上げられることも増えている、中高年のひきこもり。内閣府が2019年に実施した「生活状況に関する調査」によると、40~64歳のひきこもり出現率は1.45%で、全国に推計61万3000人いるという。
一度ひきこもり生活が始まると、そこから抜け出すのは容易ではない。では、ひきこもりを脱出するには、どんなきっかけが必要なのか。ここでは、20年以上に及ぶひきこもり生活を脱出したケンジさん(仮名、男性/54歳)が、「ひきこもり問題を考える一助になるなら」と、自身の経験と思いを明かしてくれた。
エリート父と、高卒の母「誰が金を出すと思ってるんだ!」
ケンジさんの父親は難関国立大学を卒業し、大手メーカーに勤務していたエリート。母親は高校卒業後に就職し、結婚のタイミングで退職した専業主婦だ。ケンジさんは、衣・食・住という面では何不自由なく育った。
そんなケンジさんがひきこもりになった直接的なきっかけは、就職先の人間関係に悩んだことだった。ただし、ケンジさんは、「根本的な原因は、家庭環境、つまり両親にあった」と主張する。
父親は、息子にも自分と同等クラスの国立大学合格を求めた。ケンジさんが現役時、ひそかに志望していた難関私大に合格しても、父親は「所詮私大」という“国立至上主義者”で、「滑り止めとして受けさせたが、入学は認めない」の一点張りだった。
「父は『俺の子なのに、なんでコイツはできないんだ』というのが口癖でした。進路選択において、僕の意思はすべて無視されました。滑り止めを受けさせたのは、あくまでも練習のためであって、入学させるためではないというのです。
『誰が金を出すと思ってるんだ!』と口酸っぱく言われたうえ、母も母で、父が僕に説教する姿をただ見ているだけでした。自分が高卒なので、何を言う権利もないと思っていたようです。母は常日頃からそんな感じで、すべて父の言いなりでした」(ケンジさん、以下同)
結局、ケンジさんは二浪したものの、国立大にはどこにも合格できなかった。現役時に合格した私大よりも偏差値が何ランクも低い、ケンジさん曰く「Fラン大」に進学することになった。その後、就職活動でも苦戦した。当時は氷河期が始まった頃で、就職状況は厳しかった。やっとのことで内定をつかんで就職することができたが、ケンジさんにとって不幸が襲う。会社の上司が“父親似”だったのだ。