A氏の場合、商品企画やプロモーション、広告、広報などに造詣が深かった。昨今、単純に「広告」「広報」「販促」などと切り分けられず、ネット活用も含めて有機的に融合させて取り組まなければ、効果は上がりません。その時、転職エージェンシーに紹介してもらうにしても、その人が何ができるのか、履歴書に書かれた経歴や資格だけで完全に分かるわけではないうえに、仲介料も発生する。そうなると、旧知の能力がわかっている人のほうがよっぽど安心。だからこそ、A氏が労働市場で浮いているとわかったとき、3社からオファーが来たのでしょう。
「オレが何ができるか分かってくれている人が採用の権限を持っているってのが一番デカい。正直、50代で転職するなんて、若い世代に比べると、通常の転職活動ルートでは困難なんだよ。だとしたら、若い内に様々な場所で『信用貯金』を作っておき、将来、それなりのポジションに就きそうな人に、自分の能力を知っておいてもらうことが大事。オレは出世しそうな人と仲が良かったのも功を奏したけどね」(A氏)
こう語るA氏を見ていると、仕事で出会う人々との縁をその都度、大切にしておくことが、将来の自分にとっても有益なのだな、と感じ入るわけです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』(インターナショナル新書)。