「夫がいて友達がいて仕事もある。だから大丈夫」
奇跡の生還を遂げて退院してからは、しばらく車いす生活になり、夫の介助を得ながら自宅で過ごすようになった。病気で仕事を減らさざるを得なくなり、収入もゼロ一つ分減ったが、それでも不安はないという。
「家賃が高ければ引っ越せばいい。収入の中でやっていくだけ。満足いくまで散財してきたから、昔のような贅沢な生活をしたいという気にはならないわね」
仕事ができなくなったら、ホームレスでもいいという。
「40代のときから冗談で友達に、“ホームレスになったら、そのときは差し入れをよろしくね”って言ってきたんです。私って楽観的なんですよ。もし本当にそうなったら『ダンボールハウス日記』を書けばいいし。それはそれでおもしろいでしょう(笑い)」
中村さんにとってお金は、楽しみを買うためのもの。使って楽しまないと損なのだという。65才貯金ゼロだが……。
「私はいま、誰かの支えがないと、外出もできない。不自由だけど、そういう体なんだからしょうがないって思えるようになりました。私はこれまで何でもひとりでやらなきゃと思ってきたけれど、病気のおかげでひとりで生きていけないことを学んだんですよね。
同世代の人の中には、将来のことを心配している人もいるかもしれないけれど、困ったときに手を差し伸べてくれる人はいるはず。大切なのは、その手をはねのけるんじゃなく、すがることだと思うんです」
そして、私には夫がいて友達がいて仕事もある。だから大丈夫なのよと笑った。
【プロフィール】
中村うさぎさん/作家・エッセイスト。ライトノベル『ゴクドーくん漫遊記』シリーズ(角川スニーカー文庫)や散財生活を綴った『ショッピングの女王』(文藝春秋)シリーズがベストセラーに。現在は夫の介助のもと、執筆活動や講演会などを行う。
取材・文/桜田容子
※女性セブン2023年5月25日号