だがそうは言っても、見ず知らずの人のためにお金を使うことに抵抗がある人もいるだろう。近著『シンプルで合理的な人生設計』などがベストセラーになっている作家の橘玲さんが言う。
「寄付を否定するわけではありませんが、身を削ってまで寄付をすることが効果的かは疑問です。命の価値は、いまも10年後も変わらないはず。それならいまの資産を複利で運用し、人生の最後に寄付した方が、多くの命を救えるかもしれない。私も、最後はどこかに寄付しようと考えています」(橘さん)
亡き夫の「社会の役に立てなさい」の言葉
お金を使って社会貢献する方法はなにも、寄付に限らない。自分の持っている知識や技術を広めるために起業するのもひとつの手だ。
高齢者や手が不自由な人でも編み物が楽しめるユニバーサルかぎ針「あみ~ちぇ」の開発者で、編み物講師の平田のぶ子さんが起業したのは55才のときだ。
看護師を経て専業主婦として3人の子供を育てながら暮らしていた47才で一念発起。当時の小遣いは月に1万円ほどだったが、年15万円の学費を投じてヴォーグ学園東京校で編み物の技術を習得した。その後、ユニバーサルかぎ針を商品化するまでにかかった費用は200万円ほどだという。貯金から100万円は出そうと決めていた平田さんだったが、結局は想像以上にお金がかかった。
「この頃、夫に末期の肺がんが見つかりました。かぎ針の開発を一時中断して24時間つきっきりで介護していたとき、病床で“これは、看護師で編み物講師のあなたにしかできないことだ。絶対に完成させて、社会の役に立てなさい”と言ってくれたんです。夫が亡くなって半年ほどは何も手につきませんでしたが、半年後からは、起業に向けてどんどん動いていきました。
最初は赤字スタートだったものの、亡くなった夫の“好きなことなら応援するよ”“社会の役に立てなさい”という言葉を支えに頑張って、いまは年200万円を超える売り上げが出て、トントンといったところ。4年前にはアトリエも借りられるようになりました。好きなことで社会貢献できているいまの暮らしは、とても贅沢で幸せだと感じています」(平田さん)
※女性セブン2023年6月1日号