年の瀬の寒い日に、ひとりの男性が1000万円の入ったレジ袋を手に、市役所をふらりと訪れた。「地域の子供のために使ってほしい」と一言、大金を気前よく寄付したのだ。彼は一体何者なのか、そしてその真意とは──。心を豊かにする打ち明け話。
「お金を持ってきました。子供のために使ってほしい」
窓口を訪れた高齢男性の突然の申し出に、市役所職員は度肝を抜かれた。男性がエコバッグから取り出した半透明のスーパーのレジ袋には現金1000万円が入っていた。
「年に数件寄付をいただくことはありますが、このようなケースはもちろん前例がない。札束は100万円ずつきれいに束ねられていて、それはもう驚きました」(伊丹市子育て支援課の佐藤直子課長)
職員を仰天させたのは兵庫県伊丹市で小さな理容店を営む79才の古田喜久治さんだ。古田さんが市の子育て支援課を訪れたのは2022年12月21日のことだった。
急激な円安に、出口の見えない値上げラッシュ──庶民の生活が冷え込んでいるいま、なぜ古田さんは大金を寄付するに思い至ったのか。
「そんな大層なことちゃいますよ。ぼく自身は独身で子供がいないんやけど、ニュースを見ていると子供が犠牲になる事件が多いし、女性に『働きながら産め』というのに預ける場所が足らんのも気になって。そんなことを悶々と考えているうちに、ふと寄付を思い立った。
レジ袋に入れたのは用心のためです。立派なかばんに入れると、『大層なモンが入っているんじゃないか』とひったくられるかもしれないやん(笑い)」(古田さん・以下同)