自社株買いを行う企業が昨年と比べて増加している。日経平均が3万円を突破したが、株価を押し上げる要因の一つにもなっている。『世界一楽しい!会社四季報の読み方』などの著書がある個人投資家で株式投資講師・藤川里絵さんが解説するシリーズ「さあ、投資を始めよう!」。第43回は、「自社株買い」について。
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日経平均株価が2021年9月から1年8か月ぶりに3万円をつけました。欧米ではインフレ高止まりによる景気後退懸念があったり、米中対立問題があったり、なかなか終焉を迎えないウクライナ戦争があったりと、外部環境は決してよくないのに、日本株が世界株の中でも際立って好調です。
その理由として、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が日本株に対して前向きな発言をしたことや、海外に比べて比較的地政学リスクが低いことなどが挙げられていますが、もうひとつ株価を押し上げている大きな要因があります。
自社株買い発表企業数が大幅増
4月末から5月半ばにかけて、2023年3月期決算を発表する企業が集中しています。同時に2024年3月期の見通しも開示されるので、投資家からの注目度は非常に高い決算シーズンです。通常は、新年度予想が増収増益など強気な数字であれば、株は買われる傾向にありますが、今回は、少し様子が違っていました。たとえ減収減益予想でも、同時に自社株買いを発表して、株価が上昇するパターンが多々見られたのです。
2022年の自社株買い実施企業数は、989社。この数でも例年に比べると多いほうですが、2023年は5月18日時点ですでに589社あります。今回の決算シーズン中だけでもざっと数えて150社強ありました。いったいなぜこんなに自社株買い実施企業が増えたのでしょう?
自社株買いの目的
5月15日に自社株買いを発表したT&Dホールディングス(8795)のリリースには、「自社株式の取得を行う理由 株主還元の充実及び資本効率の向上を図るため」とあります。ほとんどの企業も同様の理由を挙げています。
株主還元は、既存の株主さんへのご褒美的なものです。企業が市場から株式を買い取ることで、市場で流通する株式の数が減少するため、需給が引き締まり株価が上がりやすくなります。また、通常、自社株買いされた株数は、発行株数から除外されるため、一株当たりの利益が増える、つまり、既存の株主さんの持分利益が増えることになります。