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【実録税務調査】「そんな昔の話、覚えてるわけないやろ!」 国税調査官が絶対に見逃さない口調の変化

本題に入る前に話をじっくり聞く

「事前通知」をして税務調査を行う場合、経営者は総勘定元帳や領収書や請求書を用意しています。私はそれらの書類を横目に見ながら、午前中はその経営者が現在に至るまでの経緯を話してもらうようにしました。

 中学を卒業して、集団就職し、手に職をつけて独立された方もいました。中には、つらかった過去を思い出して泣かれる方もいらっしゃいました。その方の人生のストーリーを聞かせていただくことで、現在の事業を始めるに至った動機や理由がわかります。どの経営者も昔話はよどみなく話します。私が26年間も飽きずに税務調査の仕事を続けられたのは、経営者の物語を聞かせていただけることが何より興味深かったからなのだろうと今になって思います。

 もちろん、行政に対する不満を話されることも多くあります。

「俺たちのような小さい会社のことに構っているヒマがあるなら、もっと大きな不正を追及しろ」「だいたい税金の使い方が気にいらない。それなのに、庶民から金をむしり取ることばかり考えやがって」

 こういう場合、私は仕事として調査をしているだけなので、「行政にご不満があるなら、ぜひ政治家になって変えてください」とお答えしていましたが、いずれにしろ、本題に入る前の経営者の口調は実になめらかです。このなめらかな口調がこの経営者の普通のしゃべり方なのだとインプットしておきます。

 立会をしている顧問税理士が調査慣れしている場合、いつ本題に入るのだろうかとちょっと退屈そうな様子を見せたりするのですが、それは気にせず経営者の話をひたすら聞かせていただきます。これが私の税務調査の流儀でした。

「そんな何年も前の話、覚えてるわけないやろ!」

 午後になると、いよいよ用意された書類に目を通しはじめます。

「この請求書はどんな取引だったでしょうか」

 質問は、税理士ではなく、あくまで調査対象者である経営者に向けられます。

「えっと、これは確か……」

 思い出そうとするのですが、なかなか思い出せない様子。私はその答えを待たずに、

「では、こちらの領収書はなんのための支払いだったんですか」

 質問はあちこち飛びます。経営者は即答できないことが続くとイライラしてくるのがわかります。

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