相続といえば、プラスの財産を継承するイメージが強いが、もちろんマイナスの財産を受け継ぐ可能性もある。ある日突然、絶縁状態になっていた両親や親族の相続トラブルに巻き込まれたらどうするか……。役所からの通知で絶縁状態の父の死を知ったという30代男性に話を聞いた。
通知書の氏名の前に「相続人」の文字がついていた
「ある日突然、絶縁状態だった父の税金を納税すべしという通知書が、今はもう亡くなっている祖父の家がある市の役所から届きました。何が起こったのか理解できませんでした。僕の住所や連絡先は、母以外の親族に一切教えてないのに……。頭が真っ白になりましたね」
そう明かすのは、IT企業に勤める30代男性・Aさん。一人っ子で、両親は共働きだったが、Aさんの父親は、ギャンブルで数千万円の借金を作った挙げ句、自己破産。Aさんが大学に入学するのを待って、両親は離婚したという。それから10年以上父親とは会っていなかったAさんだが、役所からの封書で父親の死を知った。
「役所から届いた書面には、『市民税・県民税を年金から天引きできない』というような記述があったものの、『死亡』という文字は見当たりませんでした。ただ、僕の氏名の前に『相続人』の文字がついていたので、ただごとでないことは理解できました。あわてて役所に問い合わると、父親が亡くなっていたことを伝えられ、『○○さまは第1位の相続人なので、税金を支払っていただきたくご連絡いたしました』と言われました」(以下、Aさん)
Aさんはとっさに「たとえ少額であっても、払ったら相続を受け入れることになるのでは」と考え、役所には「あらためて連絡します」とだけ伝えた。最初に届いた市民税・県民税の納税通知から数週間後、今度は固定資産税・都市計画税に関わる文書が届き、「相続による所有権移転登記の手続きが済んでいない」と通知を受けたという。
祖父の家と土地があったとしても、最初から「相続放棄」を決めていたというAさん。「見えない借金リスク」を恐れた判断だったと振り返る。
「父が自己破産してから10年以上経っていたので、新たに借り入れができるようになっていて、多額の借金を抱えたまま亡くなった可能性もあると思ったんです。家庭を崩壊に追い込み、今度は僕の人生をめちゃくちゃにされてはたまったものではありません。たとえ借金がなかったとしても、疎遠になっていた父の兄弟と、“取り分”で揉めたくありませんでした。とにかく父方の人々に関わりたくなかったんです」