年間600万人と見積もっている外国人も、日本の周辺にはマカオをはじめシンガポール、マレーシア、韓国などにカジノがあるから、あえて大阪に来る客は限られるだろう。訪日外国人旅行者数は、最も多かった新型コロナ禍前の2019年で3188万人だ。これからその水準まで回復したとしても、訪日外国人旅行者の5人に1人が大阪IRを訪れる計算になる。これまた達成するのは至難の業ではないか。
一方、国内外から老若男女が毎日訪れるUSJの年間入場者数は、最高で1460万人(2016年/2017年以降は非公開)である。それを踏まえると、大阪IRの日本人と外国人を合わせて年間来場者2000万人という数字は、縦・横・斜めどこから見ても、あり得ないと思うのだ。
大阪IR以前に、2025年「大阪・関西万博」も成功する可能性は極めて低い。1970年大阪万博の「夢よ、もう一度」ということなのだろうが、いまどき万博を見に行きたいと思う人がどれだけいるのか? 大阪は1990年に花博(国際花と緑の博覧会)を開催したが、何の経済浮揚効果もなく、いまや覚えている人さえほとんどいない。
また、当初、大阪IRの公費負担はないはずだったが、大阪市は事業者からの要求で夢洲の土壌対策費約790億円を負担することになった。地盤沈下対策でさらなる支出を求められかねないとも報じられている。大阪IRの算盤勘定は何もかもがアバウトなのだ。
結局、大阪府と大阪市はペンペン草が生えている“負の遺産”の夢洲を利用したいだけであり、万博もIRも公共土木建設事業ありきの“ゼネコン案件”でしかないのである。
大阪IRに1兆円以上も投じるくらいなら、その資金で大阪城公園の周りや御堂筋の両側を高層マンションが建ち並ぶ高級住宅街として再開発すべきだと思う。というのは、大阪は経済人や富裕層の大半が大阪市内ではなく兵庫県の夙川や芦屋、奈良県の生駒などに住んでいるからだ。
彼らが大阪の都心部に住むようになれば、大阪は職住接近の24時間都市に変貌して外資系企業も拠点を置くようになるはずであり、そのためには大阪城周辺や御堂筋の両側を高級住宅街にしなければならないのだ。
世界の繁栄している都市は、イベントやお祭りで一時的に人を呼び込むのではなく、ヒト・カネ・モノ・情報が毎日押し寄せるようにしているところばかりだ。そういう街にしたほうが大阪にとっては万博やIRを誘致するよりも、はるかに有意義かつ有益なのである。そのような「構想力」が、今や圧倒的な勢力となった大阪維新の会にないのは、実に残念だ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。
※週刊ポスト2023年6月9・16日号