そして彼らが被害者に送っている“愛の囁き”は、共有ファイル上に「例文」が大量に保存されているという。
「それをコピペするか、自分流にアレンジすれば、そのうちに相手は“落ちる”よ」(別の犯人)
しかもラゴスには、ロマンス詐欺をはじめとするサイバー犯罪に手を染める犯人たちが、普通に街中を歩いているという、信じられない光景が広がっているのだ。
日本の警察やマッチングアプリの運営会社は、ロマンス詐欺の対策を強化しているが、私がナイジェリアで目の当たりにした現実に鑑みれば、取り締まりは困難だろう。
被害は、本稿で見た香奈のように銀行口座への振り込みもあれば、暗号資産(仮想通貨)やFXへの投資を名目として金銭を騙し取られるパターンも多い。特に後者は、実在しない暗号資産取引所に誘導され、取引が成功して利益が出たかのように装われるため、恋愛感情がなくても金銭を支払ってしまう人もいる。被害者は金銭的な面だけでなく、「人間不信」という二次被害にも陥る。
ロマンス詐欺の相談を受け付けている東京投資被害弁護士研究会の金田万作弁護士は、こう警戒を呼びかけている。
「ネット上でのお金に関する話はすべて『詐欺』だと思って対応すべきです。相手と直接会って氏名、住所、電話番号を確認できていなければ、騙されてもお金を取り戻すことは不可能です」
(了。前編から読む)
【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年、三重県生まれ。ノンフィクションライター。上智大学外国語学部卒。新聞記者やカメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを拠点に活動し、現在は東京。2011年、『日本を捨てた男たち』で開高健ノンフィクション賞を受賞。2022年3月下旬から5月上旬にはウクライナで戦地を取材した。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。
※週刊ポスト2023年6月9・16日号