老後資金が目減りしないように、現預金や不動産、株式、生命保険など、さまざまな財産に分散して備えている高齢者も多いかもしれない。リスクを分散することで老後を安心して過ごせる一方で、相続が発生したときに「どこに、どれほどの財産があるのかわからない」と、相続人が苦労することも少なくない。
相続発生後は、被相続人(亡くなった人)の財産を調べ、原則10か月以内に申告をしなければならない。ただ、被相続人の財産にどのようなものがいくらあるかは、配偶者や子どもであっても知らないケースは多い。相続税申告書に財産の記載漏れがあった場合は、過少申告加算税や無申告加算税などのペナルティ対象とされ、本来の納税額より多くの相続税を納めなければならない。
国税庁の「令和3事務年度における相続税の調査等の状況」によると、令和3年度に6317件の実地調査が行われ、約87%となる5532件が申告漏れの指摘を受けている。このほか、電話や文書による「簡易な接触」でも、3638件の申告漏れが発生している。
このように、使い切れなかった老後資金がどこにあるのか、相続人が把握できない状況になると、相続人に迷惑をかけてしまうことになるのだ。
財産がわからないとどうなるか
ここからは、親の財産が把握できずに苦労したケースを紹介しよう。両親の離婚によって疎遠になっていた父の財産を相続することとなったAさん(30代・男性)。税理士から「どのような財産があるのか」と質問を受けたが、当然ながら即答できなかった。
「父の財産に株式やゴルフ会員権などがあるかと聞かれたが、全くわからない。株式投資をしていると聞いたこともあるが、どこの証券会社でしているのかがわからず、調べようがなかった。申告漏れのリスクについて説明されても、調べたくてもわからないのだから、どうしようもなかった」
また、税理士から借金がなかったかと聞かれても、「わからない」としか答えることができず、不安が募るばかりだった。
「借金をするような父ではなかったが、改めて『借金はありませんでしたか?』と聞かれると、相続することへの不安が増しました。借金がないことを確認するために、父が住んでいた家への郵便物を自宅に転送し、督促状などが届かないかを確認しました。借金があって、妻や子どもに迷惑をかけるわけにもいかないので……」