亡くなる前に資産総額がわかっていれば、相続手続きはスムーズに進む。もちろん遺言がなおいいだろう。だが、そうでなかった場合、遺された家族の苦労は少なくない。経済アナリストの森永卓郎さん(65才)は、2011年3月に亡くなった父親の相続を振り返って「二度とやりたくない」と苦笑する。
「父の介護は妻がやってくれていました。亡くなる2年ほど前に入った介護施設の費用は、初めは父の口座から引き落としていましたが、底を突いてからは私が支払っていました。“ほかに口座はないの? 通帳は?”と聞いても“わかんねぇなぁ”と……」(森永さん・以下同)
森永さんの父が亡くなった後、父が使っていた貸金庫にも、実家にも、通帳は1冊もなかったという。
亡くなってから10か月以内に相続税の申告を済ませなければ、脱税になる。経済アナリストである森永さんは、大慌てで郵便物を一つひとつくまなく調べ、ようやく銀行口座を9つ、証券口座を2つ見つけることができた。だが、本当に大変なのはここからだった。
「お金を引き出すためには、父の出生から死亡までのすべての戸籍謄本が必要でした。転勤が多かった父の戸籍を全国各地から取り寄せるだけでも、3か月以上費やしました。それなのに、いざ開いてみたら残高が700円しかない口座もあって……頭にきて“放棄します!”と言ったこともあります(笑い)」
ようやく調べ上げた遺産総額は、不動産や預貯金を合わせて約1億円。10年以上自宅で面倒を見て、最後は施設費用も支払っていたが、遺言書がなかったため、森永さんは弟ときっちり、すべてを折半したという。
「兄弟仲がよくて、争うのがイヤだったんです。そもそも、父が生きているうちに口座を探し出して施設費用や父の生活費に充てていれば、相続税はゼロだったはずです。父を反面教師に、いまは子供たちのために夫婦の口座リストをつくって妻と共有しています」
相続の苦労は、一筋縄ではいかないようだ。
※女性セブン2022年9月22日号