成長著しいある企業が、米国で8社目となる「1兆ドルクラブ」に仲間入りした──。GPU(画像処理半導体)の設計・開発を手がけるエヌビディアだ。世界的な需要拡大から株価は上がり続け、5月30日にはついに時価総額が一時「1兆ドル(約140兆円)」に達した。
米国では「時価総額1兆ドル」が巨大企業の一つの指標となっているが、これまではグーグル(アルファベット)やアップル、電気自動車(EV)メーカーのテスラ、サウジアラビアの国有石油会社サウジアラムコなど7社だけだった。
米国株全体の牽引役となったエヌビディアだが、創業は1993年と若い。20年前の同社の株価が1ドル前後だったことを考えると、直近の株価はそこから400倍に高騰している。仮に20年前、100万円分の同社株を購入して保有していた人は、4億円以上の価値になっていたということだ。
株の世界では買値の10倍以上に“化ける”銘柄を「テンバガー」と呼ぶが、現在のエヌビディアはそれを遥かに超えるインパクトを市場に与えた。株価急騰の理由を、多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏はこう見る。
「ビットコインなど暗号資産の取引の際に必要なチップの供給などで注目されてきたエヌビディアですが、近年はChatGPTなど生成AI向け半導体の開発体制を強化しており、同分野の成長期待の高まりから株価が急上昇したと見られます。
6月2日までの年初来で、同社の株価は169%上昇。同期間のナスダック総合指数の上昇率26%と比べると、いかに群を抜いているかがわかる」
米新興企業のオープンAIが開発したChatGPTの公開後、世界中で生成AIの開発競争が加速している。マーケットバンク代表の岡山憲史氏はこう言う。
「ビッグデータを処理する生成AIには1万個の半導体が必要だと言われており、エヌビディアはその8割のシェアを握っています。時価総額1兆ドル超えは半導体企業として初めてのことです」
エヌビディアには世界中の投資家から熱視線が送られている。
※週刊ポスト2023年6月23日号