しかし、不起訴になると裁判で犯罪が証明されることはありません。不起訴理由が起訴猶予なら犯罪が前提ですが、不起訴理由は通常明らかにされません。捜査の結果、嫌疑不十分や、そもそも犯罪ではないという場合もあります。
つまり、不起訴以降に実名を報道すると事実の証明が極めて困難です。真実と信じたことに過失がないというのも難しくなり、そのため、実名報道は非常にリスクの高い行為となります。
ただ、不起訴でも、仮に何らかの方法で犯罪事実を証明できる場合があるとしても、検察が処罰するまでの悪性がなかったと判断した上で不起訴にした場合には、ことさら実名を挙げ報じるのは、公益を図る目的として報道したものとはいえないと解される可能性が残ります。
もっとも、冤罪を明確にする報道であれば名誉回復に資するので、実名を挙げても名誉棄損にはならない場合もあります。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2023年6月23日号