6月21日に開催される株主総会を前に、エレベーター大手・フジテックの創業家と、モノ言う株主の対立が激化している。
フジテックは1948年に故・内山正太郎名誉会長が大阪府で創業した「富士輸送機工業」が母体で滋賀県彦根市に本社を置く。現在は20以上の国と地域で事業活動を進めるほか、国内では高層ビルやインフラ施設などを中心に約7万台のエレベーターを保守管理し、2023年3月期決算の連結の売上高は約2075億円と、業界4番手の大手企業だ。
そんなフジテックに大騒動が勃発したのは2022年5月のこと。香港系の投資ファンド「オアシス・マネジメント」(以下、オアシス)がフジテック創業家出身の内山高一社長(当時)の「会社私物化」を理由に、株主総会で内山氏の再任に反対することを呼びかけたのだ。
緊張の中で迎えた昨年6月の株主総会では、直前にフジテックが内山氏の社長再任議案を急遽撤回、内山氏は取締役や執行役から外れて「会長」に就任した。その異例の事態に反発を強めたオアシスはフジテック株の買い増しを進め、昨年3月末時点で7.29%だった株保有率は昨年11月末に16.52%まで増加した。
筆頭株主となったオアシスの要請で今年2月に開かれた臨時株主総会ではオアシス派の社外取締役4人が選任され、新取締役会は内山氏を会長職から解任したのだ。それにしてもなぜ、フジテックはオアシスのターゲットになったのだろうか。経済アナリストの池田健三郎氏はこう解説する。
「オアシスのようなアクティビストと呼ばれる投資ファンドは短期売り逃げ型ゆえに、業績がよく、内部留保が手厚い企業を狙います。また内山家のような、のんびりした創業家のスキに付け入り、情報戦を仕掛けて取締役を送り込むことも彼らの手口です。フジテックは前期比11%増という好業績のわりに株価が安かったこともオアシスに足元をすくわれる要因になりました」
オアシスから「事業経営の話は出てきません」
会長職を解かれた内山氏はまず、自らに向けられた疑惑についてこう話す。
「オアシス側が訴えている疑惑については事実無根です。これらに関しては現在、オアシスやその最高投資責任者らに対して名誉毀損訴訟を起こしているところです。また、私が会長に就いたのは、取締役会での決議であり、事業の継続性と安定性を考慮いただいたと考えています。
エレベーターは20~30年を通した長いライフサイクルであり、お客先や社員に対しても、いきなり退任することで影響はあると思います。それなのにオアシスが筆頭株主になってから、今取締役会は皆オアシスのほうに向いていて、すべてがオアシスの言う通りに進んでいる。それを危惧していて、会長解任に対する無効を求めています」
その上で、創業家に戦いを挑んできたアクティビストについてこう語る。
「オアシスはフジテックの経営に興味はありません。特定の企業をターゲットにして、内部留保を吐き出させて会社の資産を切り売りし、短期間で売り抜けて高率の利益を出すことが彼らの目的です。その証拠に、オアシスから事業経営の話はまったく出てきません。しかしエレベーターは耐用年数が20~25年で、顧客とは長期にわたる信頼関係が必要です。短期的な売り抜けには適さない業種なんです」