自慢のクルマのセルを押します。750ccの4気筒エンジンは一発で目覚め、心地いい、子供の頃に憧れたサウンドを奏でてくれます。早速クラッチを握り、1速にシフトして走り出しました。一瞬にして若かりし頃にタイムスリップしていきます。最新のビッグバイクに比べれば振動もそれなりにあり、カーブだって「エイ、やぁ」と多少の力業でないと曲がってはくれません。それでも好き勝手に走り回った約2時間のツーリングはまさに夢見心地で、楽しくて仕方がありませんでした。
このままずっと乗り続けたいという思いを残したままの返却でした。「高校生の頃に買えなかった夢を、今叶えている」と、なんとも幸福な経験が後を引きます。ビンテージカーや旧車に乗るということは、その車が生まれた時代背景をも一緒に背負うだけの覚悟が必要なのです。「パーツもまだなんとか入手可能だし、少々の部品なら製作も可能です」という段階で、なおかつ知人は自宅にガレージを持ち、自分の手をオイルで汚しながら愛車の整備を行う覚悟があるのです。もちろん、メンテナンスや整備は専門ショップにすべて任せるという楽しみ方もあっていいし、まったく否定はしません。
しかし一方で「古いクルマやバイクで出掛けるということは、現代のクルマでは考えられないようなトラブルに突然襲われること覚悟しなければいけません。おまけに「古いバイクは重いし取り回しも大変だし、なによりも簡単に曲がってくれないから、ライディングテクニックも必要だ」という彼の言葉は忘れてはいけません。「最低限の知識や整備のスキル、そしてライディングテクニックがないと無事に帰宅できない可能性だってある」ということを理解できなければ、安易に古いクルマに手を出してはいけないと改めて自らに言い聞かせました。
【プロフィール】
佐藤篤司(さとう・あつし)/自動車ライター。男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書『クルマ界歴史の証人』(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。