多くの飲食店や宿泊施設では、事前にアレルギー反応を起こす食材を伝えていれば、それを使わない料理を提供してくれる。しかし、事前に伝えていたのに、店側の不注意でその食材が使われてしまった場合はどうなるか。慰謝料などを請求することはできるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
家族旅行で泊まった旅館に、事前に娘のアレルギー食材を伝えてあったにもかかわらず、夕食にその食材が入っていたため、娘にアレルギー症状が出ました。
幸い大事には至らなかったのですが、万一のことを考えると不安でなりません。旅館の不注意だったので宿泊代を半額にしてくれましたが、精神的な苦痛に対する慰謝料を請求することはできますか。(福岡県・45才・主婦)
【回答】
アレルギー症状の程度によっては、単なる宿泊費の半額免除くらいでは済まない場合もあります。しかし、大事に至らず、例えば入院するといったこともなければ、仮に慰謝料請求が認められても高額にはなりません。
過去の裁判例を挙げて説明しましょう。
重度の即時型牛乳アレルギーがあり、アナフィラキシーショックも起こしたことがある4才の女児が両親とホテルに宿泊し、食事をしました。ホテルではビュッフェ台上のカードに、提供料理について、小麦・乳・卵・そば・落花生・かに・えびの特定アレルギー物質を表示し、それ以外は従業員が質問に答える体制を整えていました。つけ合わせのマッシュポテトについてはカードに記載がなく、父親が従業員に牛乳・乳製品が含まれていないか尋ねました。すると従業員が使用を否定したので女児に食べさせたところ、バターが含まれていたため、アレルギー症状が出現し、救急車で病院に搬送されました。
女児は救急搬送後、病院でさらに症状が進んで、アナフィラキシーショックと診断され、集中治療室で治療を受けました。幸運にも治療が功を奏して回復し、翌日には一般病棟に移り、その翌日に退院できました。