ウクライナ侵攻が始まって以降、ロシアが世界中から非難の声を浴びている。国単位での経済制裁も続いているが、一方で旅館が「ロシア人の宿泊を拒否」を宣言するケースも報じられており、こちらに法的な問題はないのだろうか。客を拒否する「契約自由の原則」の範疇はどこまでか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
温泉に行ったら、旅館のフロントで何やらモメている様子。どうやら家族がチェックインしようとしたところ、その中にロシアからの留学生がいたようです。旅館側はロシアの青年の宿泊を拒否したらしく、そのことで家族が猛反発。このご時世、旅館の気持ちも理解できますが、それでも問題アリですよね。
【回答】
私人間の取引は、自由です。気に入らない相手方と、取引する義務はありません。契約自由の原則は、自由経済社会の鉄則なのです。
しかし、人種や国籍を理由とする取引拒否は、人種・社会的身分等による差別を禁じている憲法の精神に反します。相手の人格を傷つけ、その法的利益を侵害する不法行為になる場合もあります。
それだけではなく、法律で取引拒否を禁じている場合があります。例えば、医師は『医師法』により、正当な事由なく診療を拒む事はできません。鉄道は『鉄道営業法』で、タクシーやバスは『道路運送法』で、乗客が法令等に違反したり、乗車が公序良俗に反するなど、一定の場合以外の乗車拒否を禁じています。医療も交通も、生活には欠かせない重要なインフラです。こうした業種では、契約自由の原則が制限されるのです。