NHK大河ドラマ『どうする家康』で描かれた、有村架純演じる徳川家康の正室・築山殿(瀬名)と嫡男・信康(細田佳央太)の非業の死は、史実をベースにしているとはいえ、多くの視聴者を釘付けにした(第25回「はるかに遠い夢」)。その衝撃が冷めやらぬなか、次の放送回(7月9日放送。15日再放送)で歴史作家の島崎晋氏が注目したのは、約3か月ぶりに登場した京の商人・茶屋四郎次郎だ。武士の身分が確立した江戸時代にあっても、茶屋四郎次郎のような豪商は権力を拡大し続けたが、なぜ、彼らは富をその手に得ることができたのか。島崎氏が解説する。
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7月9日放送の『どうする家康』第26回「ぶらり富士遊覧」は前回から一気に2年の歳月を跳び越え、本能寺の変まで「あと2か月」の状況が描かれた。
明智光秀(酒向芳)の登場が久方ぶりなら、茶屋四郎次郎(中村勘九郎)も4月2日放送の第13回「家康、都へ行く」以来、久方ぶりの登場となった。
登場人物の大半が武士かその家族ということもあって、『どうする家康』における茶屋四郎次郎の存在は異彩を放っている。京都の豪商にして、他の同業者が織田信長(岡田准一)にしか目を向けないなかにあって、茶屋四郎次郎だけは早くから徳川家康(松本潤)への接近を図り、第26回では信長饗応の手伝いをするため、わざわざ京から下ってきた。家康の覇業を陰で支えた人物だけに、次回以降は毎回のように登場するはずである。
茶屋四郎次郎のような政商の存在と役割については、江戸時代概説の古典的名著とも呼ぶべき大石慎三郎著『江戸時代』(中公新書。1977年初版刊行)に以下のような、わかりやすい説明がある。
〈豊臣時代から徳川時代のはじめにかけては、領主権力と強く結びついた初期特権商人と呼ばれる御用商人たちが商人の主流であった〉
〈この段階での領主と商人との関係は、のちの両者の関係からは想像もできぬほど親密なものが多く、徳川家康と茶屋四郎次郎の例のように、ほとんど親友に近いものもあった〉
けれども、江戸時代初期の経済政策が重農主義か重商主義かと問われれば、やはり重農主義と答えざるをえない。課税の中心は耕作地で、税はコメで納めるのが原則だったからである。