生配信なら全員が「アリーナの最前列」
これまでにない試みだったために、すぐに実現には至らなかったが、吉田氏はなんとか具体化させるためにプレゼンを重ねたという。
「コロナ禍で暗い世の中になっているからこそ、前向きになれるイベントが必要だと思ったんです。そのために、誰もが知っている八代さんの歌ほど力を発揮できるものはない。生配信では、すべての視聴者がアリーナの最前列に座れる。目の前で憧れの歌手を見られるし、直接やり取りするプログラムも可能です」(吉田氏)
実は2020年、八代さんは最愛の母親を亡くしている。コロナによって最晩年はガラス越しの面会となった。そうした経験が背中を押すかたちにもなり、2022年から、月に1回の生配信イベントが実現したのだった。
前述の第13回の配信では、年齢について尋ねられた八代さんが「私たちくらいの年齢になったら歳は取るものじゃなくて、(意識から)取るものなの。取り出した歳は若い人たちにポーイって投げつけて過ごせばいいの」と笑顔で語り、視聴者を湧かせた。
若い頃に聞いていた音楽は、一瞬にして時間を巻き戻してくれる。懐かしい歌を口ずさみながら、歌い手本人がやり方を手ほどきする「エクササイズ」に取り組む――ポストコロナのシニアの心身の健康維持のためのこうした新たな取り組みには、大きな可能性が広がっているのかもしれない。(了)