高齢化の進行とともに、高齢者住宅・施設の需要が高まっている。厚生労働省老健局の令和2年の資料によると、2010年に約23万6000人だった有料老人ホームの利用者は、10年後の2019年には倍以上の約54万人にまで増えている。ひとくちに有料老人ホームといっても入居一時金ゼロ、月々の支払いが10万円程度の施設から、入居一時金が1億円を超える高級ホームまで様々だ。ただ、「高ければ安心」なのかというと、そうとも言い切れない実態があるようだ。
老人ホームを選ぶにあたっては、クオリティー・オブ・ライフ(QOL)の充実を一番に考えるべきとする指摘は少なくない。質の高い介護サービスが十分に提供されているのはもちろんのこと、毎日顔を合わせる従業員の人となりや、施設を取り巻く周辺環境など、目を配るべき点は多い。加えて、「医療面の充実度がQOLに直結する」(介護ジャーナリスト)という点も見逃せない。
公的施設である特別養護老人ホームと違い、民間施設である有料老人ホームは業態や価格帯によってサービスの質が大きく変わってくる。医師や看護師などが常駐するホームもあるが、すべての施設にそれを望めるわけではない。医療従事者が常駐していないものの、地域の病院やクリニックと連携することで入居者の医療に対する不安を解消するホームもある。前出の介護ジャーナリストが続ける。
「有料老人ホームの施設ごとの価格差は相当なものですが、一般論として利用料金が高いホームのほうが、医療面が充実している傾向はあるでしょう。入居一時金が1億円を超えるような高級老人ホームでは、ホテルのコンシェルジュのようなスタッフが常駐してあれこれと世話を焼いてくれることも珍しくなく、いわゆる『勝ち組』の施設と捉えられます。医療の面も充実している割合が高いと思います。ただ、その一方で『高ければ安心』とも言い切れないのが、難しいところです」
夕方以降がいちばん危ないのに…
東京都内で訪問医療を提供する医師は、自身が目にした“高級老人ホーム”の医療面のケアの実態についてこう証言する。
「入居一時金が1億円を超え、月々の支払いが数十万円になる超高級施設の提携医をやっているのですが、そこの医療体制は充実しているとは言い難い。入居者に大金を払わせておいて、17時以降は看護師がいないというのですから。施設側に理由を尋ねたら『看護師は人件費が高いから』と平気で答える始末。インスリン注射や床ずれ・褥瘡の措置などは介護スタッフではなく看護師でないとできないし、血圧や体温などの測定は介護スタッフでも可能ですが、看護師のほうが敏感に異変を察知できる可能性が高い。
また、認知症がある高齢者は、夕方くらいから気持ちが不安定になりがちです。症状の急変も起こりやすい。無理な立ち上がりや、徘徊で転倒のリスクが高くなる。ところがちょうどその時間帯から看護師がいなくなるのですから、ケアの体制としては心許ない」