トヨタ車で一番小さいサイズのSUVの「ヤリスクロス」。小さいながらも、“固まり感”のあるエクステリアは存在感があり、その軽快な走りと合わせて支持を得ている。そのヤリスクロスに、トヨタが展開するスポーツカーブランド「GR」の名を冠して仕上げたのが「ヤリスクロスGRスポーツ」だ。自動車ライターの佐藤篤司氏の連載「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。今回は、ヤリスクロスGRスポーツを実車レポートする。
「走り」だけではない、サーキット仕様の利点
モータースポーツやスポーツカーにあまり興味がない人にとってトヨタの「GR」ブランドといわれても、ピンとこないかもしれません。まずは少々交通整理をしましょう。
トヨタには60年あまりに及ぶ、モータースポーツへの挑戦の歴史があります。その長年にわたるモータースポーツ活動から得られた、数多くの知見は市販車開発にフィードバックされ、より安全で、より快適で、より充足感のあるクルマ作りに生かされてきたわけです。そのような重要な役割を担うトヨタのモータースポーツ活動を率いるのが「TOYOTA GAZOO Racing」です。国内はもとより、WRC(世界ラリー選手権)や WEC(世界耐久選手権)といった世界のトップカテゴリーのレースでも活躍し、数多くの栄冠を手にしています。
そして、レースという極限状態から得た貴重な知見は一般車だけでなく、「より強くモータースポーツのDNAを受け継ぐスポーツカー開発」にも、活かそうということになります。そこで生まれたのが「TOYOTA GAZOO Racing」の頭文字に由来して名付けられた「GR」というスポーツカーブランド。当然ながら、この名が付いているモデルは、テストドライバーがボディ剛性やサスペンションなどを見直し、メーカー自らがエアロパーツやホイールやシートなど、各部に専用のチューニングを施したコンプリートカーです。ベース車よりも、かなりスポーティな味つけになるのです。
さて、ここでGRブランドの説明が終われば、ややこしくはないのですが、実はGRラインアップは、さらに味つけによって大きく3つに分けられるのです。
まずモータースポーツでの勝利を目指すための公認車両としてフルチューニングを施して開発された台数限定の「GRMN」というモデルがあります。現在、「GRMNヤリス」が市販モデルとしてホームページには並んでいますが、すでに「完売」となっています。これまでも「GRMN」は用意されると、すぐに完売という人気です。
次に控えているのが、本格的な性能を持ちながら誰もが望めば購入できるスポーツカーの「GR」です。一般的にはGRカローラやGR86、GRスープラなどのように「車名の前」にGRの文字が入ります。