大阪府の吉村洋文知事が掲げた高校の「授業料無償化」を巡って波紋が広がっている。大阪府の計画案は少子化対策の一環として私立高校を含めた所得制限なしの完全無償化を進めようとするものだが、一定額を超えた分の授業料などについては学校が負担するという内容だったため、府内の私立学校のトップ、制度設計について懸念する保護者が反発していた。さらに、ここにきて近隣他府県の有名進学校などからも批判の声があがっている――。
現行制度の下において、高校の授業料は世帯年収に応じて一定額を国が支援し、各都道府県が上乗せして補助するかたちとなっている。現在の大阪府の就学支援制度では、一定の所得以下の世帯を対象に授業料が無償化されている。それに対して吉村知事は所得制限を撤廃した完全無償化を実現すると掲げているのだ。そのアプローチとして、生徒1人あたり年60万円という授業料の上限を定め(キャップ制)、超過分は各学校が負担する制度案を今年5月に公表したのである。
これに近畿2府4県の私立高校でつくる私学連合会が「超過分が学校負担となると教員の人件費の削減などによって教育の質が低下する」などと懸念を表明。大阪市立中学校高等学校保護者連合会も会見を開いて「無償化の言葉ばかりが先行して、子供に不利益が生じる案だ」と訴えた。
また、新制度案の対象は大阪府内に住む高校生。そのため、大阪府内の高校生が「大阪府外の高校」に通う場合にも無償化の対象となり、学校側の負担が増える可能性があるわけだ。
そうしたなか、大阪府内の私立学校へは説明の場が設けられていたが、近隣他府県の私立学校関係者に対する説明は後回しにされてきた現実もある。7月7日になって、大阪府から説明を受けたというのが、兵庫県私立中学高等学校連合会副理事長を務める和田孫博氏だ。和田氏は、東大合格者ランキング最上位の常連として知られる兵庫・灘高校の前校長である。府側からの説明を受けて新たに判明した問題点について、和田氏はこう指摘する。
「新制度案では、大阪府の教育長から無償化制度の指定を受けたり、授業料改定の事前協議をしたりするかたちだというのです。大阪以外の府県に監督を受ける立場の私立高校が、どうして大阪の教育行政の枠組みに入らないといけないのか、疑問でなりません」
現在、灘高校でも全校生徒の約3割にあたる209人が大阪から通学しており、「影響は小さくない」と和田氏は話す。