すぐに居酒屋から手を引き、新店の店長からやらせていただきました。その成果が認められたのか、5か月後には、東日本16店舗を統括する、スーパーバイザーを任されました。
スーパーバイザーになって1か月が経った頃、決算の情報が耳に入ってきました。そのときのマイナス額に唖然としましたね。私も店舗経営をしてきたので、経験を踏まえて考えると、このままじゃまずいぞと……。
その頃の私は、少しずつ会社の問題点に気づき始めていました。たとえば、社内のコミュニケーションが活発でないことや、事業再生のための明確なビジョンがないことなどです。
そこで専務に直接、「私を意見の言える立場にしてください」と直談判しました。もちろんただのスーパーバイザーのそんな話は、聞き入れられるはずはありません。
でも、私も本気ですから、慣れないパソコンを駆使して資料を作ってメールしたり、電話をしたりして、何度もお願いしました。50代にして初めて、オフィススキルを使いながら学んだ、というわけです。
そんなあがきが、2か月ほど続いたでしょうか。あるとき応接室に呼ばれ、「代表取締役になってください」と言われました。私をそんな大役に任命するなんて、役員にも相当な危機感があったんだと思います。青天の霹靂(へきれき)ではありましたが、迷うことなく、「わかりました、がんばります」とその場でお受けしました。52才のときでした。不安というよりは、「さぁ、何をやろう」という気持ちが強かったですね。
でも最初はわからないことだらけ。いちばん困ったのは、取締役会の司会を任されたこと。そんな会に出席したことがないので、どう進めればいいかわかりません。仕方がないので、インターネットで調べましたよ(笑い)。
こんなふうに、仕事でも家庭でも、不安なことっていっぱいあると思うんです。そんなとき、私は自分のいい面をフォーカスして自分でほめるようにしています。たとえば、就職経験はなかったけれど、専業主婦時代は大好きな料理の腕を磨き、夫や息子に尽くしてきた。そのことを強みにしたからこそ、いまは尽くす相手をお客さまに変えて、突き進んでこられた、とかね。
だって自分で自分のことをほめてあげなかったら誰がほめてくれますか? 特に主婦って、家族からほめられる機会ってあまりないじゃないですか。やってもらえて当たり前と思われている。だから自分でほめるんです。
私の座右の銘は、「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」。生きていれば苦労もありますが、笑えることが1日ひとつでもあって、自分のいい部分をほめてあげられれば、こんなに素晴らしいことはありません。毎日を好日にできるかは、自分の心がけ次第だと思っています。
【プロフィール】
藤崎忍(ふじさき・しのぶ)/1966年、東京・墨田区生まれ。21才で結婚し、地方政治家の妻となる。39才、夫の落選により初就職。それから13年後、ドムドムフードサービスの社長に就任。著書に『ドムドムの逆襲 39歳まで主婦だった私の「思いやり」経営戦略』(ダイヤモンド社)など。
※女性セブン2023年8月3日号