(は?)
目の前には亡くなって数時間しかたっていない夫が横たわっているのに、その場でそんなことを言われて……。夫が亡くなったことすら受け止められていないのに、悲しむ時間ももらえないのかと、腹立たしいというより虚しかったですし、正直、会社のことも大切ですが、子供たちの方が大切です。
それで泣きながら、「社長なんて、できません」と、お断りしました。
主婦時代から担当した『てばさ記』でも気づき
私は結婚前、教員をしていましたが、その後は専業主婦で、夫の会社で働いたことはありません。ただ、
「料理を待つお客さんの気が紛れるものを作ってほしい」と夫から頼まれ、毎月店舗に掲示するかわら版通信『てばさ記』は書かせてもらっていました。
夫が亡くなった1週間後も、次号の締め切りでした。担当者は、「1号休みましょう」と言ってくれたのですが、休んだら不思議に思うお客さまもいるだろうし、何より夫がお客さまへの感謝を“いまこそ”伝えたいだろうと思ったんです。
だから、「お客さまへのじゃなく、私への配慮だったらいらない」と返事をし、休まずに書くことに。
当時は連日後継者問題に追われ、1週間で体重が5kg落ちるほどの精神状態。それでも『てばさ記』を書き出したら、想いが溢れて筆が止まらないんです。あぁ、私は自分が思っている以上に、夫のことはもちろん、会社やお客さまのことを考えていたんだなと気づかされました。
専業主婦ですから経営のことはまったくわからないけれど、会社への想いは夫に負けないくらいある。外部の人が会社経営を行うことで、夫の理念が崩れるぐらいなら、いまは私が代表をやるべきだと思いました。それで、後を継ぐ決断をしたのです。