しかし、2~3才までの乳幼児の場合、母子の相互関係が子供の心理的発達に影響が大きいことから、母親優先の原則があるといわれています。家庭裁判所では調査官がこれらのことを調査し、当事者の言い分も聞きつつ審判決定に至ります。しかし、夫が一方的に連れ去り、面会もさせない点から、一刻も早く連れ戻したいとお考えと思います。
その場合、審判前の保全処分の申し立てが考えられます。これは審判決定前に子供の引き渡しを実現しようというものですが、審判でも認められる見込みがあるほか、このままだと子供に著しい不利益があるなどの保全の必要性が発令要件になります。家庭裁判所では迅速な調査を行い、こうした要件の有無を調査して判断することになります。
子供の引き渡しを命じる審判や保全処分命令があると、地方裁判所に所属する執行官に申し立てて、子供を直接夫から取り上げて引き渡しを実行してもらう方法があります。しかし、子供が嫌がったり、夫が隠してしまうと実現できません。その場合は、夫が子供を引き渡すまで1日当たり一定の金額の支払いを命じて、事実上、履行を強制する間接強制による執行ができます。
なお、家庭裁判所の審判を受ける事件は大半が調停を先に申し立てることが必要で、審判申し立てをしても調停に回されますが(調停前置)、対立が激しいなど調停成立の見込みがない場合には、直ちに審判を受けることも可能です。最寄りの家庭裁判所に相談されることをおすすめします。無理やりの連れ戻しは子の心の平穏を奪う行動なので、監護に関して不利になります。
【プロフィール】
竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2023年8月3日号