田代尚機のチャイナ・リサーチ

対中強硬策を打ち出す米国が「中国への輸入依存度低下」を素直に喜べない事情

中国への輸入依存度の低下は、本当に対中強硬策によるものなのか(バイデン大統領。Getty Images)

中国への輸入依存度の低下は、本当に対中強硬策によるものなのか(バイデン大統領。Getty Images)

 米国の中国に対する輸入依存度が最近、大きく低下している。5月の輸入先第1位はメキシコで15.7%、第2位はカナダで13.9%、中国は第3位で13.6%であった(U.S. Census Bureauより、以下データ同様)。この順位は1~5月の累計でも変わらない。四半期ベースで統計を振り返ってみると、昨年第3四半期までは中国が第1位であったが、第4四半期にはメキシコに抜かれて第2位に転落、今年第1四半期にはカナダにも抜かれ第3位となっている。

 とはいえ、輸出先はこれまで通り中国が第3位で、貿易赤字は依然として中国が最大規模のままである。もし、トランプ前大統領が主張したように、米国が中国との貿易収支を均衡に近づけることを現在も目標としているのなら、輸入依存度の引き下げはまだ道半ばである。

 もっとも、ここで気になるのは、足元の輸入依存度低下が米国の対中強硬策によるものなのか、それとも中国側の要因、たとえば経済情勢や構造変化による影響なのかという点である。

 トランプ前大統領が対中強硬策を打ち出す直前の2017年における米国の国別輸入状況を調べてみると、中国の輸入比率は21.6%、メキシコは13.4%、カナダは12.8%であった。直近の中国のこの比率は、6年前と比べて8.0ポイント低下している。一方、メキシコ、カナダは上昇しているとはいえ、それぞれ順に2.3ポイント、1.1ポイントの上昇幅に過ぎず、中国の低下分の半分も補っていない。別の国の比率も調べてみるとこの期間、日本は1.5ポイント低下、イギリス、フランスは微減、ドイツ、イタリアは微増と、先進国全体でみれば大きな変化はない。それ以外の国については、台湾、韓国、インドなどからの輸入比率はそれなりに上昇しているが、ベトナムは突出していて1.5ポイント上昇している。

ASEANに進出する中国企業

 中国本土上場企業の決算書など、ミクロベースのデータを調べてみると、たとえば、世界最大の太陽電池メーカーである隆基緑能科技(601012)はベトナム、マレーシアに工場を持っており、太陽光発電製品メーカーの晶澳太陽能科技(002459)、晶科能源(688223)など、多くの太陽光発電関連企業がASEANに生産拠点を持っている。また、プリント配線板(PCB)メーカーの滬士電子(002463)は2022年6月、タイで新たな生産工場を建設すると発表するなど、この業界も多くの優良企業がタイ、マレーシア、ベトナムといったASEANに製造拠点を設けている。そのほか、アパレル関連メーカー、自動車部品メーカーなど、ほとんどの輸出関連企業がASEANを中心に海外進出を果たしている。

 2000年代中頃からすでに米中貿易摩擦が発生していたことに加え、低賃金で働くことのできる若い労働者が減少傾向となったこと、最低賃金の上昇、人民元の上昇といった構造的な要因もあり、薄利多売の輸出関連企業の海外進出は、目立たないだけで既に大きく進んでいる。それが表面上、中国から米国への輸出の鈍化、ベトナム、タイなどのASEANから米国への輸出の増加につながっているとみられる。

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