田代尚機のチャイナ・リサーチ

対中強硬策を打ち出す米国が「中国への輸入依存度低下」を素直に喜べない事情

 つまり、中国の産業構造の変化が要因の一つということだ。産業構造が高度化するのに伴い、輸出品目にも変化が出始めている。それを示す象徴的な出来事として、自動車の輸出に関して、中国が世界最大となった点が指摘できる。

 2022年の中国の自動車生産台数は2702万台で世界最大だ。巨大な市場を背景に、米国の2.7倍、日本の3.4倍の生産規模を誇る(OICAより)。その上、地方、中央の各部門が一丸となって多方面から総合的な産業支援策を打ち出したことで化石燃料自動車から新エネルギー自動車への転換が急速に進んでおり、2022年の新エネルギー自動車の生産台数は8年連続で世界最大規模となっている(中国発展網より)。大きな生産力を持ちえた結果、2023年第1四半期には中国の自動車輸出台数(中国自動車工業協会より)は58.1%増の107万台となり、日本を上回り世界最大の自動車輸出国となっている。

国家主導による産業構造の高度化

 国家主導による産業構造の高度化は半導体産業においても着実に進んでいる。米国による中国に対する半導体、半導体製造装置の輸出制限措置の効果は限られる。ロシアに対する欧米諸国による半導体輸出規制が完全には機能していないことからもわかるように、グローバルなモノの流れを管理することは米国にとっても難しい。

 インテル、クアルコム、NVIDIAのCEOなどが参加する中、米国半導体工業会は7月17日、ブリンケン国務長官、サリバン国家安全保障担当大統領補佐官、レイモンド商務長官などバイデン政権高官と会合を開き、バイデン政権に対して対中半導体輸出に対する制限をやめるべきだと主張した。“2022年における中国の半導体消費量は1800億ドルで世界全体の32%超と、世界最大規模である。グローバルな半導体サプライチェーンは高度に融合しており、米国は中国と取引を続けざるを得ない。米国の半導体企業が中国市場から締め出されるようなことがあれば、損失は大きい”ということが理由である。

 電子産業の中では、前述のように、太陽光発電産業などは米国による規制が主な原因で企業の海外進出を加速させたが、現在でも世界最大の産業規模を維持している。外圧は中国の発展を一時的に抑えることはできても、中国の産業構造が高度化することで、かえってその発展を加速させかねない。中国企業は米国企業の下請けから卒業し、米国企業の真の競争相手に変貌しつつあるが、米国といえども、その歴史的な変化を変えるのは困難ではないだろうか。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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