7月25日に中古車販売大手・ビッグモーターの経営陣が記者会見を開いた。顧客の車を故意に傷つけたうえで損害保険会社へ不正請求を行なっていた問題を巡って、創業者である兼重宏行社長、息子の兼重宏一副社長の辞任が発表され、和泉伸二・専務取締役が後任の社長に就くことが明らかになった。この問題について兼重社長は、6月に外部弁護士による特別調査委員会の調査報告書を受け取るまで認識していなかったと話したが、リスクマネジメントの専門家からは経営者としての資質を問う厳しい指摘があがっている。
会見で不正を認識していたのかを問われた兼重社長は、「板金塗装部門の単独で経営陣は知らなかった」「特別調査委員会の報告書を受け、本当に耳を疑った。こんなことまでやるのかとがく然としましたね」などと述べていた。
こうした釈明について、リスクマネジメントが専門の社会構想大学院大学教授・白井邦芳氏は、「長期間にわたって起きていた不正について社長が一切知らなかったというコメントをするのは、自らに経営能力が全くなかったと述べているに等しい」と指摘する。
「経営者には、会社全体のリスクを俯瞰して監視する責任があります。ですから、問題に気づかなかったのではなく、自分の能力がないために気づけなかったということになる。本来、経営者に求められるのは、自社の業務に関するリスクを抽出し、どういった問題が起こり得るかを考えて、それを野放しにせず、最悪問題が起きたとしても早期発見するための仕組みを作ることです。
具体的には内部通報制度とか、内部監査などの手法があります。第三者的な監視の目を置くことも含めて、ダブルチェック、トリプルチェックの仕組みを作るのが経営者の役割なのです。そうしたことを通じて問題を発見したら、問題が小さいうちに修正する。それを“知らなかった”“耳を疑った”と言うのですから、残念ながら経営者としての資質が足りなかったということでしょう」(白井氏)
記者会見では、兼重社長の経営者としての資質に疑問符がつくことを裏付けるような場面が見られたと白井氏は続ける。
「新社長となる和泉氏と兼重社長の話しぶりを比較すると、和泉氏が自分の言葉でコメントを出していたのに対し、兼重社長は誰かが書いたのであろう原稿を読み上げていました。そのあたりからも、兼重社長には今回の会見を通じてとにかく早く沈静化を図りたいだけでは、という印象を受けました」