日本でいえば、1995年から2021年で家計金融資産は750兆円も増えました。日本の家計資産はとくに預金や保険のウエイトが高いので、そのかなりの部分が銀行や保険会社を経由して金利低下要因として働いてきたと考えられます。とにかく額が非常に大きいので、この家計金融資産増加による金利低下効果はおそらく非常に大きなものであることが推測されます。
金余りは、家計だけの現象ではありません。企業は一般的にお金を借り入れる側であることが多いのですが、近年は手元資金を豊富にもち、資金を借り入れるニーズが大きく増えていかないのです。これは、重要な金利の押し上げ要因が減衰しているという点で、やはり金利低下要因のひとつになります。
ここまでみてきた家計金融資産増大や企業の資金調達ニーズの減衰は、経済の構造的変化によって生み出されてきたものですが、金余りの一部は長年の金融緩和政策によっても生み出されています。
金融が緩和されると、低金利で大量の資金を借り入れやすくなります。ファンドなどの運用会社は、そうした環境を利用することで自分たちの投資資金を大きく膨らませることができるのです。そうした資金の一部は債券投資や貸付などに回り、やはり金利を押し下げる要因として働きます。
日本の国債の利回りは極めて低い水準で推移
現在の世界の金融市場における非常に影響の大きな現象のひとつである金余りには、経済の構造的要因から生み出される金余りと、金融政策によって人工的につくり出されている金余りがあるということですね。構造的変化から生み出される金余りは、おそらく解消が極めてむずかしく、何十年という単位で続く可能性がある一方で、金融政策によって生み出される金余りは、その政策の方向性によって状況が大きく変わりうるものだということに注意が必要です。
それにしても、家計資産が膨れ上がり、その一方で企業がお金を借りなくなると、あり余ったお金は最終的にどこに向かうのでしょうか。それは国です。国は、税金で得たお金を財政政策で支出するのが基本ですが、必要な財政支出を税金で賄うことができない場合には、国債を発行するなどして借金で財政支出を行ないます。この国債発行額が近年大きく増えているのです。
こうした国の借金増加もまた世界共通の現象ですが、そのなかでもとくに日本は国債の発行残高が相対的に非常に大きいことで知られています。2022年度末で、国債の発行残高は1026兆円に上ることが見込まれています。ほかにも、この数字には含まれていない政府の債務があり、それらも含めた債務総額のGDPに対する比率は250%を超えています。
これは、先進国のなかでは突出した水準で、歴史的にみれば19世紀前半のナポレオン戦争直後のイギリスに匹敵するものです。