1990年代のバブル崩壊以降、日本では長きにわたって低金利時代が続いているが、その要因の一つに「金余り」が挙げられるという。いったいどういうメカニズムなのか。著書『教養としての「金利」』が話題の金融アナリストの田渕直也氏が、金利と金余りの関係について解説する。
金余りと金利
日本は、1990年以降にバブルが崩壊した後、「失われた20年」とか「失われた30年」などといわれる低成長時代に突入しました。それは同時に低金利時代でもあるわけですが、その低金利は、成長率の低下が大きく影響しているのはもちろん、もうひとつの要因である金余りもまた大きな影響を与えています。
金余りは、実のところ日本だけでなく世界的な現象です。主要先進国で、経済成長率が趨勢的に低下していくなか、家計がもつ金融資産は軒並み趨勢的に増加し続けているのです(図表)。このグラフに示されている期間中、とくに日本では経済活動規模を表すGDPがあまり増えていないにもかかわらず、家計の金融資産は増え続けました。
これは一見すると不思議な現象ですが、少子高齢化などの影響で、貯蓄率が高止まりしながら経済成長率が落ちていくと、GDPに対する家計金融資産の比率は増大していく傾向があるのです。アメリカなどでは、そうした効果は日本ほど顕著ではないでしょうが、その一方で家計が多くの株式関連資産を保有しているので、この間の株価上昇の効果も加わって日本以上に金融資産が膨らんでいます。
いずれにしても、金余りはここ数十年にわたって続く世界的に大きなトレンドです。金融資産の蓄積によって世の中のお金の量が増える一方で、先進国経済の伸びは緩やかなので、設備投資などはそれほど増加せず、実経済ではそのお金を十分に使い切れません。その結果、あり余ったお金は、一部は株式市場などに流れ込みますが、そうでなければ銀行や保険会社などの金融機関に滞留し、これが市場金利の低下を促します。