子供が巣立ち、老後に自宅を売却、賃貸物件への引っ越しを検討する人は少なくない。住宅ジャーナリストの山下和之氏が言う。
「都市部の中古マンションや戸建ては高値が続いており、今が売り時です。マイホーム売却時は所有期間を問わず、売却益が3000万円以下なら譲渡所得税もかかりません(居住用財産の3000万円特別控除)。住宅ローンを完済していれば、売却代金をそのまま老後資金として残せるメリットがあります」(以下「 」内同)
そもそも持ち家に住み続けると、固定資産税や火災保険料のほか、修繕費用や設備の交換などの維持費が恒久的にかかる。また、若い時に買った住まいほど老朽化しており、耐震性・断熱性などの性能面、バリアフリー対応などの面からは高齢者が住みにくい住宅となっている可能性がある。
断熱性の低い住まいは夏場の熱中症、冬のヒートショックのリスクが大きいことも見過ごせない。築浅の賃貸住宅に移れば、そうした心配がなく、高齢者にとっては安心だ。
一方、高齢者は一般的に賃貸物件が借りにくい(入居を断わられやすい)現実もある。家賃が安く高齢者も申し込める公営住宅は倍率が高く入居は困難。家賃が手頃で高齢者でも入居できる物件となると、築年数が経ち利便性が悪いケースが多い。そもそものニーズに即した住み替えは想像以上に困難が伴うようだ。
そこで山下氏が「ひとつの考え方」として提案するのが、次の解決策だ。
「もっとも無難な選択は、今の自宅をバリアフリー化するなど高齢者仕様にリフォームして住み続けることです。耐震性や断熱性を高める工事をすると、住宅の規模により1000万円程度かかるケースもありますが、住み慣れた環境、馴染んできたコミュニティのなかでストレスなく暮らせることは、高齢者にとって一番のメリットと言えるかもしれません」
2階建てなら平屋に“減築”するのも一手だという。終の棲家だからこそ、慎重に考えたい。
※週刊ポスト2023年9月1日号