地方にありながら世界でトップシェアを誇る企業──山口県宇部市にある食品加工機械メーカーのヤナギヤは、「カニカマ製造装置」で世界シェア7割を誇る。同社は、ホンダの元F1チームの監督でエンジニアとして尊敬される中村良夫氏が在籍したことでも知られる。
1916年にかまぼこ製造業として始まった同社が転機を迎えたのは1975年。24歳の若さで就任した柳屋芳雄・現社長が社内に新風を巻き起こした。
「『できない理由』ばかりを述べるのではなく前向きなアイデアを求め、全国の顧客を訪ねて要望を聞きました。その最中にカニカマに目をつけ、かまぼこの製造技術を活かし、1979年に独自のカニカマ製造装置を完成させました」(柳屋社長)
大きな武器を手に入れた柳屋社長は海外に目を向け、1980年代の世界的なカニカマブームに乗り、韓国、旧ソ連、アメリカ、タイ、イタリア、フランスなどに販路を広げた。
「外国はカニカマの消費量が増えると自国での生産を始めます。それに合わせて当社の製造装置を輸出販売し、シェアを高めました」(同前)
現在、世界24か国で約60万トン生産されるカニカマ。その製造ラインを支えるヤナギヤはさらなる飛躍を誓う。
「“より本物に近く”という顧客ニーズに応えて開発を進め、いまでは限りなく本物のカニに近い商品に育って世界中で愛されています。今後も“おいしいをつくる機械屋さん”をモットーに、カニカマだけでなく様々な食品加工機械を開発していきたいですね」(同前)
2つの分野で世界シェア1位の湖北工業
1つだけでなく2つの分野で世界シェア1位を誇るのが、滋賀県長浜市に本社を置く湖北工業だ。家電や自動車に必要不可欠なコンデンサ部品(電子部品)の「アルミ電解コンデンサ用リード端子」が世界シェアの6割超、海底ケーブルの中継器に用いられる「光アイソレータ」が世界シェアの5割超を誇る。同社の石井太社長が語る。
「ニッチですがどちらも家電や車、スマホの通信など日常生活に欠かせない製品です。リード端子は見る機会がなく気づかれませんが、各家庭で1000個単位で使われています。自動車の電子制御にも不可欠ですが、ISO(国際標準化機構)規格のなかにある車載専用規格をクリアできているのはウチの製品だけです。
海底ケーブル用光アイソレータも材料から製造まで一貫して扱うのは世界中で弊社だけです」
地方にいながら世界で勝負できるのは徹底した検証によって注力するメイン事業を絞り込み、「品質特性」に磨きをかけるからだ。
「研究部門に力を入れ、高い品質の製品を提供するクオリティ企業を目指しています。市場が海外なので東京や大阪など大都市にこだわる意味がなく、場所の不利はありません。滋賀は自然豊かで仕事がしやすいと評判で、東京の麻布が実家という人が再就職で入社したこともあります。弊社は知名度こそないけれど世界を舞台に欠かせない役割を果たしており、社員にもその自負があります」(石井社長)
株高に沸く日本経済だが、本当に景気を下支えするのは、目立たなくても地力がある企業なのだ。
※週刊ポスト2023年9月1日号