近年ではインターネット上で請求書や契約書などをやり取りする「電子取引」が普及してきた。スマホでも電子取引は可能で、カナダでは親指を立てた“いいね”の絵文字が契約合意の返事として認められたケースも。今後は日本でも絵文字で契約成立することがあるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
カナダで興味深い判決が出たようです。要約すると、契約書の返事に“いいね”の絵文字を使ったところ、それで契約成立とみなされたとか。今後、日本でも契約書を電子取引で送った際、その返答がニコニコマークなどの絵文字だった場合、それは合意とみなされ、契約が成立したことになってしまいますか。
【回答】
カナダの裁判所で、“いいね”の絵文字をスマホで返事して問題になったのは、亜麻の売買取引の契約でしたが、同じ当事者間では、それ以前から小麦の売買が何度も交わされており、買手が契約書の写真を送った後、売手は「yup(うん)」とか「OK」、あるいは文字で「いいね」と返事して契約を成立させてきた背景がありました。そして、問題の取引も電話で担当者同士が契約について協議し、話がまとまった後、買手が契約写真を送った上で、契約の確認を願うとのメッセージを添え、送ったケースだったのです。
一方、売手は収穫前であり、気候変動などで生産できない恐れもあって契約できないので、契約書を受け取ったという趣旨で“いいね”の絵文字を返したと反論したのですが、裁判所は絵文字は伝統的なサインとは違うけれど、当該事情の下では署名者を特定し、契約の承諾を伝える方法として有効であるとの判断を示し、契約の成立を認めました。
契約は当事者の意思の合致により成立します。意思の合致は、まず外形的、客観的に判断されます。誰が見ても契約成立と思われる場合には、主観的意図にとらわれずに契約成立が認められます。この理屈は、カナダでも日本でも同じ。なので事情如何では、日本でも絵文字回答での契約成立が認められる可能性はゼロとはいえません。