フランスでは若い移民系住民を中心とする暴動が、全土に拡大している。この状況を経営コンサルタントの大前研一氏は“フランスのアメリカ化”と評している。移民・難民の数が多い国でいま何が起きているのか。そして労働力不足に悩む日本は、移民・難民の受け入れについてどう考えていけばよいのか。大前氏が解説する。
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フランスに限らず、2010年代半ば以降、移民・難民の数が増加しているヨーロッパ諸国では、深刻な軋轢が生じている。たとえば、スウェーデンとデンマークではこのところ、イスラム教の聖典コーランに火を付けたり、破り捨てたりする事件が何度も発生。極右や民族差別主義が横行し、移民・難民の受け入れに反対する動きが広がっている。“フランスのアメリカ化”もまた、EUが抱えている問題の象徴と言える。
その一方で、先進国は今やどこもかしこも労働力不足になっている。そうした中で、外国人を排除するのではなく、いかに受け入れ、その能力を活かしていけるかが問われている。
このため、たとえばすでに国民の4人に1人が移民のカナダは、2023年に46万5000人、2024年に48万5000人、2025年に50万人の移民受け入れを目指すと発表。カナダの人口は昨年、過去最多の105万人増加して約4000万人になったが、増加分の実に96%は移民によるものだ。今後も労働力が不足している分野で必要なスキルや資格を持つ移民を受け入れていくという。
また、オーストラリアは18世紀から長く白豪主義(白人最優先主義とそれに基づく非白人排除政策)だったが、労働力を増やすため、1970年代に多文化主義に転じて移民の選別における人種的基準を撤廃した。それ以降はアジア系を中心に世界各地から移民がやってくるようになったため、移民に対して英語教育制度を中心とする様々な定住サービスを提供するとともに市民権取得基準も緩和した。クリスマス島のボートピープル収容施設でもドイツと同じような国民化教育を行ない、難民の定住を推し進めている。
翻って日本は、外国人労働者の永住につながる在留資格「特定技能2号」の対象を従来の2分野から11分野に拡大することを閣議決定したばかりである。しかも、1982年から2022年までの難民認定申請数9万5436人のうち、難民と認定されたのは1319人に過ぎない。