青春と故郷の「乗数効果」
甲子園が盛り上がる構造と、卒業生が慶応ブランドを重要視する構造が“自身が経験していないものまで思い出として消費できる”という点で類似していることに、前出・柳瀬氏は「今回のことで初めて気づいた」と続ける。
「もともと、慶応にはスキー選手でもあった加山雄三さんが在学していたことなどもあり、『青春』のイメージがあった。また、学生や出身者が慶応に勝手に『故郷』を感じるカルチャーもある。今回、三塁側スタンドで過剰とも指摘される応援が起きたのは、慶応に青春と故郷を感じ、さらに高校野球にも青春と故郷を感じるという気持ちが乗数効果を生み、興奮が増幅したのではないかと考えられます」
大きな盛り上がりは結果として、反感も生んでしまった。柳瀬氏はこう話す。
「優勝を果たした慶応の選手たちですが、彼らは中学時代に全国レベルで戦ってきた選手たちです。慶応のエースと4番は中学チームで全国制覇を成し遂げたバッテリーですし、ほかの部員も全国大会出場経験のある猛者たちが集まった。慶応ブランドを身につけ、入学には一定の成績も必要とされますが、スポーツ選抜のチームという側面もある。
そうした事実はネットで調べればわかることですが、メディアは『勉強も頑張る慶応が勝った』と騒ぎ立て、鵜吞みにした年齢層の高い慶応OB・OGが勝ち組然として『文武両道の慶応』を応援し、ハメを外してはしゃぐ。そんな姿は一転、周囲からはいけ好かなく映ります。決勝で反感が広がったのは、そうした認識のズレや誤解も根底にあったと思います」
甲子園と慶応という強大なブランド同士の化学反応だったからこそ、OB・OGたちを過剰に興奮させ、同時に一部で反感も招いてしまった、ということか。(了)