リーマン・ショックが日本の“貧困元年”
『ルポ コロナ禍で追いつめられる女性たち 深まる孤立と貧困』(光文社新書)などの著者でノンフィクションライターの飯島裕子さんが貧困問題に関する取材を始めたのはリーマン・ショックの直前だ。
「80年代のバブル期には貧困が社会問題として認識されることはありませんでした。ところがバブル崩壊後、非正規雇用で働く若者が増えてきた。『あえてフリーターを選んでいる』といわれたけどそんなことはなかった。“必死に仕事を探しても見つからない状況にある”ことがわかってきたのです。
そんななか、2008年にリーマン・ショックが起こり、派遣切りに遭い家を失う人も出てきた。貧困が見える形で人々の前に現れたこの年は“貧困元年”といってもいいでしょう」
日本テレビのディレクター時代に「ネットカフェ難民」という言葉を世に送り出し、以来貧困問題に携わってきた上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明さんが続ける。
「リーマン・ショックの後、非正規雇用者が一気に増え、ワーキングプア、年越し派遣村、ネットカフェ難民などの貧困問題がクローズアップされるようになりました。規制緩和やアベノミクスで『給料が上がる』といわれ続けてきたのに、世界の中で日本だけ収入が増えなかった。ウクライナ情勢や急激な円安で、賃金は上がらないのに物価が急上昇し、生活困窮者はますます増えています」
いまや先進国の中でもっとも貧しい国の1つとなってしまった日本で、貧困は極めて身近な問題になった。
「貧困問題が顕在化し始めた20年前は、なぜそんな状況に追い込まれたのか、“自己責任”ではないか、と言う人も多かった。でもいまは、貧困はもはや他人事ではないと思う人が増えているのではないでしょうか」(飯島さん)
実際、日本人の貧困率は高止まりを続けている。厚生労働省が今年7月に発表した『国民生活基礎調査』の最新値によると、2021年の日本の相対的貧困率は15.4%にのぼる。相対的貧困率とは、等価可処分所得が中央値の半分未満世帯員の割合をさす。
6人に1人が貧困状態にある──これが今の日本の現実というわけだ。
※女性セブン2023年9月14日号