別のケースでは、母親が遺言書に「同居していた長男に自宅(評価額1億円)と預金2000万円、妹の長女に預金2000万円を相続させる」と書いたことが、死後、兄妹の仲を引き裂いた。
「母は、自宅は老朽化し価値がなく、現金を平等に相続させれば問題ないという考えだったようです」(山本氏)
自宅は都市部で交通至便のため評価額1億円だったが、同居の長男が「小規模宅地等の特例」を利用すれば相続税は圧縮できた。だが、長女の考えは母や長男とは違った。
「兄に『不公平だ』と主張して遺留分侵害額請求の訴えを起こし、さらに生前贈与や自宅の時価評価を巡る争いに発展。解決までに約2年、弁護士費用は約500万円も要したといいます」(同前)
相続発生後、遺留分の侵害を受けた相続人は、侵害を受けたと知った日から1年以内の請求により、遺留分侵害額を受け取ることができる。
しかし、決着までにかかる時間や労力を考えると、もめない内容の遺言書であるのが望ましい。遺留分の存在を含めて親に準備を促したい。
※週刊ポスト2023年9月15・22日号