遺伝の話はかつてタブー視されていた
安藤教授が「遺伝の話そのものが、社会科学全般において今でも少なからずタブー視されています」(『経済セミナー』2015年2・3月号)と話しているように、遺伝が人の学力や収入などを左右するという言説は今まで“言ってはいけない”ことであった。ゆえに安藤さんの研究はベストセラーの中で取り上げられると、読者の強い関心を引いたのだ。
読者も「遺伝が学力に影響をするの」とうすうす感じていたのだろうが、メディアなどでは明言はされてこなかった。
安藤教授自身のベストセラー『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SBクリエイティブ)の中には遺伝が与える影響の調査結果が掲載され、雑誌の記事で引用されたり、Twitter(現・X)などで拡散されたりしている。
親が高学歴でも勉強が苦手な子供もいるが…
そのデータでは、遺伝が与える影響として、学業成績(9歳時)は国語が6割強、算数や理科も約7割。そして、才能は音楽が9割以上は遺伝の影響があるという。
ちなみに、15歳児の体重や身長は9割が遺伝の影響があるとされる。音楽の才能は体型と同じほど遺伝による影響があるとされ、数学もそれと近いようだ。ここでいう才能というのは、いくつかのテストをして測っているものだ。
このデータだけを見ると、学力も才能も遺伝の影響が強いように見える。
インタビューをした保護者は、このデータを念頭に置いて「算数の成績は遺伝で決まるんです」と言い、「うちは夫婦でド文系なので算数で勝負が決まる中学受験では不利です。高校受験に切り替えた方がいいかもしれない」とも話していた。
確かに、遺伝が学力に影響をしているのではないか、と感じる場面は多々ある。中学受験生の保護者を取材していて、「塾に入れっぱなしで、親はなにもしないのに、御三家に合格した。ホント、私も夫もなにもしてないのでお話しすることもなくて……」というパターンもあるが、往々にして両親のどちらかが高学歴だったり、知的労働に従事していたりするのだ。
ただ、一方で、東大の同級生夫婦の子どもが中学受験塾でずっと塾の一番下のクラスにいたり、弁護士と医者の夫婦の子どもが中学受験で全部不合格だったりという、「高学歴親の子だけど勉強苦手」というケースもしばしば見かける。そして、それらは「例外」というには数が多すぎる。