少子化が続く一方、中学受験の受験者は増加傾向にある。2022年は過去最多の受験者数5万1100人を記録した(「首都圏模試センター」調べ)。中学入試の競争が激しくなる一方、中学受験を目的とした塾の勢力図も変化してきている。『中学受験 やってはいけない塾選び』などの著書があるライターの杉浦由美子氏が、合格実績の高さから注目が集まる学習塾「SAPIX」(サピックス)の強さの秘密について考察しながら、現在の教育全体の現状を読み解いていく。
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コロナ禍の中でオンライン授業などの対応の良さから私立中高一貫校の人気が復活している。その中学受験の世界で関東の塾は「SAPIX(サピックス)一強」という様相を呈している。
関東の最難関・筑波大学附属駒場(通称「筑駒」)の2022年度の合格者129名のうち104名が、私立トップの開成は416名のうち、283名がサピックス生だ(2022年度実績、サピックスHPより)。トップ校の合格者の大半をひとつの塾がここまで占拠したことはかつてない。私は『中学受験 やってはいけない塾選び』という本を作るために1年かけて塾や保護者を取材したが、その中で面白いと思ったのはサピックスという塾だった。なぜなら、この「サピックス一強」の理由を取材していると、中学受験だけではなく、今の教育の有り様が見えてきたからだ。
まず「サピックス以前」を見ていこう。中学受験の老舗大手塾、四谷大塚が発行する『予習シリーズ』というテキストがある。市販されていて、今も他の多くの塾も使っている。オーソドックスなテキストだ。たとえば、算数のテキストの多角形の項ではまず「正三角形や正方形はバランスのよい美しい図形です。この正三角形と正方形をそれぞれ2等分してできた図形を組み合わせたものが三角定規です」と説明が書かれ、その後に平行四角形の面積を求める例題が書いてある。
ところが、小学生からすると、この「正三角形や正方形は~」という説明の文章を一人で読んでくることはハードルが高い。そのハードルを越えてくる生徒たちが以前は中学受験に参戦してきた。
「かつて四谷大塚が合格実績を伸ばせたのは、予習してくることが前提だったからです。一人でテキストを読んで予習してこられる子たちはそれなりの地頭の良さを持っていたから、授業のよく内容を吸収し、御三家(男子は開成・麻布・武蔵、女子は桜蔭・女子学院・雙葉)に合格していったんです」(中学受験塾・元塾長)