「地頭」という言葉にもいろいろな定義があるが、ここでいう「地頭」とは、生まれつきの「中学受験の勉強に向いた脳」を指すのだろう。もちろん例外はあるが、それの多くは遺伝によって親から子へ受け継がれるものではないか。
「合格実績は生徒の地頭が決める」という話は、取材先でもしばしば聞く。都内には“塾銀座”と呼ばれるエリアがあり、そこには大手塾から中小の塾までたくさんの塾が校舎を構える。そのうちの一つの中小塾の関係者がこう言った。
「うちは大手塾でついていけなくなった子たちの受け皿なんですよ。だから、うちの塾は合格実績が伸びないんです」
つまり、大手塾についていけない“地頭があまりよくない子”が自分の塾に流れてくるから、その塾は合格実績がパッとしないと言うのだ。
そう言いたくなるのも分からなくはない。中学受験生の約半数は四谷大塚の「予習シリーズ」を使って勉強をしている。早稲田アカデミーのような大手塾や他の塾もこの教材を使っている。同じテキストを使って授業をしても塾によって校舎によって合格実績に差が出たら、それは生徒の「地頭」、つまり「生まれつきのもの」のせいにしたくなるだろう。
「普通の子も鍛えていけば御三家に入れる」の真相
一方で、「うちは勉強が得意じゃない子でも鍛えていけば、早慶や御三家に合格させられると考えています」と話す塾の経営者もいる。
しかし、この経営者はこうも付け加えた。「もちろん、まったく勉強に向いてない子は無理です。あくまでも普通の子をターゲットにしています」
ここでいう「普通の子」というのは「中学受験の普通の子」である。『二月の勝者』でも語られているが、中学受験は全小学生のうちの学力上位20%の子どもたちの間での競争だ。
四谷大塚の偏差値50の生徒を「普通の子」だとして、それは全小学生のうちの上位20%までの子どもの中間、つまり上位10%の学力の子なのである。「普通の子を鍛え上げていく」という塾でさえ、実は全小学生のうちの上位10%をターゲットにしているわけだ。
そう考えていくと、中学受験で難関校に合格できるかどうかは、全小学生の中で上位10%までの「勉強に向いた脳」を前提とし、なおかつ、いかに効率的に努力をするかにかかっているのではないか。さらに言えば、高学歴な保護者の子が有利になってくるだろう。親が勉強に向いた脳を持ち、それを受け継いでいる可能性が高くなるからだ。
「たくさん授業のコマを入れるのは高学歴な親」
ただ、取材をしていると、高学歴な保護者の子どもたちが中学受験で成功をしていないことも多々見受けられる。親から「勉強に向いた脳」を受け継がなかったケースもあれば、地頭のよさは引き継いだが本人のモチベーションが低く、努力をしなかったケースもあろう。それらの話は納得ができるが、中には、親の地頭を引き継いでいるように見え、かつ、努力をしたのにうまくいかないケースもある。
そういう場合、親が「塾のせいだ」と強くクレームをつけてくることもしばしばある。