国際学力調査(PISA)でも日本の子どもたちの読解力低下が結果として出ており、小学生の読解力が著しく低下している中で、難関校は入試で読解力がある生徒をセレクションする必要がある。読解ができない生徒ばかりでは、授業がままならないからだ。
入試で求められるものが変化していることで、苦戦しているのが、“代々慶應”といった家庭だ。なぜなら、かつての慶應系列の中学の入試は暗記で乗り越えられたが、現在はそうはいかないからだ。
そんなケースのひとつが、今回紹介するAさん(40代男性・東京、世田谷区在住)である。父親は慶應、Aさん自身は中学から普通部に入り、慶應大学を出て、今はある教育系の企業に勤めている。
Aさんは元々御三家を目指していたが、途中で慶應の普通部に志望を変えた。今も昔も変わらないのは、男子においては、最も学力が高い層は御三家を受験し、慶應や早稲田の系列の中学はその次ということだ。「算数がそこまで得意ではなくて、御三家は無理そうだったので、途中から慶應普通部を目指すコースに移籍した」とのことだ。
Aさんは子どもの受験を通して知り得た中学受験の情報をよく覚えていて、偏差値についても細かく数字を細かく記憶しており、暗記は得意な人だと推測できた。
最後の3ヶ月は月に40万円を塾と家庭教師代に費やす
Aさんは息子を慶應普通部に入学させることを熱望していた。自分の母校に入れようと思ったわけだ。
そのため、最初、最難関校に特化したエリート塾に入ろうとしたが、入塾テストで落ちてしまった。仕方なく、SAPIXに入った。SAPIXは大手塾なので幅広い学力層を受け入れる。しかし、なかなか上のクラスには上がれない。
「理科や社会は点数が取れるんですが、算数がなかなか伸びなくて」
それでも算数はどうにかなったが、最大のネックは国語であった。慶應普通部の中学入試の国語では7000文字前後の長文を読んで、読解する必要がある。ところがAさんの息子は長文を読解することが苦手だった。そこでAさんはなにをしたか。暗記で国語をクリアさせようとしたのだ。
「国語の問題はテーマが離婚や友情、淡い初恋などがあるので、このテーマならこう解いていくというパターンを学ばせたんです。そういうことを教えてくれる家庭教師をお願いをしました」(Aさん)
そのために、小学6年の11月から1月までの3ヶ月は国語の家庭教師を「ベタ付け」した。しかし、難関校で出題されるような文章を読み、問題を解くだけの読解力や応用力は短期間では身につかない。取材した自由が丘の国語塾も「国語の成績を上げるには最低でも半年は必要だから、早めに来てほしい」と話していた。
算数の場合、「図面の比がどうしても解けない」としたら、そこだけ集中して学べば短期間で成績を上げることは可能であろう。しかし、国語は読解力という根本的な力をつけないと点数が上がらないし、そして、そうそう短期間で読解力は高まらない。
ちなみに最後の3ヶ月はどのぐらい費用がかかったかと訊くと、「家庭教師代に月30万円、塾への支払い10万円」と返ってきた。3ヶ月間で120万円を受験対策に費やしたのだ。私が取材した中でも最高額である。